▼5 「てっめぇら!!」 聞き覚えのある罵声。 なんだろう、どうして私毎度こんなに噛みつかれるんだろう。 明るい金髪がひょこひょこと近づいてくる。 「高盛く」 「手なんか繋いでんじゃねぇっ!!」 着眼点が鋭い! 結構離れた位置にいたのに見えてたの!? ていうか何でそんな目くじら立てられなきゃいけないのか。 私と稔が仲良くいちゃいちゃしてたら高盛くんに迷惑でもかけるっていうのか。 まぁ確かに、街中で人目を憚らずベタベタしまくってるカップルは精神衛生上あまり宜しくないとは思うけどね。 仲良き事は美しきこと。 なのにどうして無性に胸の奥がムカムカとしてくるんだろう。 けどまさか手繋いだだけで怒られるとは。ちょっと高盛くん、それは反応が過剰なんじゃないのかな。 はっ、まさか 「そうだったの高盛くん」 「は?」 「高盛くんも稔狙いだったんだね……、ごめん板宿先輩にばかり気を取られて全然分かってあげられなくて。さあオレの代わりに思う存分稔の手を握るがいイタイッ!」 思い切り頭をすっぱたかれた。誰にって稔に。 握ってるのとは反対側の手で器用だな。歩きながらだからやりにくかったろうに。 いやだって、あれだけ威勢よく邪魔しにきたら普通そう思うじゃないか。 少女マンガで言うなら、絶対に主人公が靡く余地のない可哀そうな当て馬じゃないか。 まだ何か言うなら2発目も辞さない。 そんな風に拳を握りしめて無言で威圧してくる稔に、こっちも頭を擦りながら無言でむくれる。 「なん、で、お前はいっつもいっつも訳の分らん事を――、そうじゃなくて板宿先輩に申し訳ないと思わないのか!? とにかく! 離れろ!」 何故板宿先輩にお伺いを立てるような事をしなきゃならない。 あの人もう稔の事はさっぱりと半年前に諦めてるよ。 既にもう新しい恋に乗り出してるんじゃないの、そういうのとても積極的そうだもの。 ていうか、板宿先輩ってイイ男を侍らせたいだけじゃないのかって気もする。 ハーレムは男女問わずの夢だよねぇ。 高盛くんを放ったまま思考が随分ずれた。 時間的に言えば数秒だったんだけど、無反応で放置された高盛くんはイラっとしたのだろう。 実力行使に出た。 無理やり私と稔の間に割って入り、二の腕らへんを掴むと左右に引き離した。 2人が横並びになるのがせいぜいの幅の砂利道で、そんな事をされたら。 「うわっ!!」 思い切り横に押された私は、ふらふらとよろめいた。 「堂島!」 普段だったら踏ん張ってすぐに体勢を立て直せた。 だけど今の私の足は疲労のピークに達しようとしているところで、生まれたての馬のようにプルプルしているような状態で。 足が何もない空中を踏み、当然すかしを食らう。 心臓がドクンと鳴り、全身の毛が逆立つような緊張を味わったとほぼ同時に身体が落下した。 何か掴むものをと無意識に伸ばされた手を、稔が掴んだ。掴んでくれたようだ。 実はパニクってわけがわかって無い私。 そんな私にできるのは ファイトオオオオオオオ イッパーーーーッツ!!!! なんて気合も虚しく、2秒も持たずするりと稔の手から私は抜け落ちた。 「リポビタンDみたいな真似できっかああぁぁぁぁっ!!」 やはり私はこの時大混乱していたのだと、後になって、こんな事を叫んでいたよと教えられて思ったのです。 前 | 次 戻 |