▼4 「よし、堂島が元気になるように歌ってやろうか」 「もういいよ、歌はもういい!」 基にいっぱいやってもらったよ。一緒にいっぱい合唱して余計体力無くなったんだよ! 全力でうつミンの気配りを斬り捨てた。 ちょっと彼の歌声を聞いてみたい気もしたけど。 「ていうかもう大丈夫です。大分休んだから」 立ち止まったせいで余計に足が重くなったのは気のせいに違いない。 かなり列の後方になってしまったから、これ以上はのんびりしてられない。 「じゃあカナ、手繋いで行こう」 ふわふわな依澄。手を差し出してくる依澄。 だぁぁっ! なんかこの子だけ生きてる空間が違ぇっ!! 柔らかく微笑む依澄の周りキラキラしてる。輝いてる。 どこの国の王子様なのかな。 しかし悲しいかな、私に対するこの態度は決して乙女に対するものじゃない。 ただ単に小学生同士がおてて繋いでキャッキャと笑いながら学校から帰る、それと同レベルのものだ。 そうと分かってるから私も遠慮なく握り返すのだけれど。 私が断らないのは当然のものとして、特に照れも見せない依澄は前にいる稔を見た。 「かたミンも繋ぐ?」 ………は? 「え、ちょ、依澄!? 依澄と稔が手繋いだら絵になるかもしんないけど、それってちょっと傍から見てしょっぱいよ!?」 私と内海くんからしたら眼福ものだけどね! 是非とも見たい。内海くんも少し身を乗り出したし。 だけど現実で男子高校生がおてて繋いでハイキングってさぁ!? あれもしかして私と依澄も今その状態じゃね? これ結構ヤバくね!? 「ボクとじゃなくてカナとだよ」 「えぇ!?」 見事に私と稔の声が裏返った。 この子きょとん顔で何言い出してんだ? 「左右から支えられてたらカナ、楽じゃない?」 「残念ながらそんな効果はあまり期待できないと思うなぁ」 私が両腕を二人の肩に回して、担いでもらうような格好なら楽かもしれない。 でも繋いでるだけじゃあなぁ。 本当依澄ってば可愛いったらありゃしないわ。 3人仲良くなんてそれこそ小学生じゃあるまいし。 てか、この細い道で横並びに3人とか普通に考えて無理だから。 砂利道の脇は歩けない程の急斜面になっている。 ロープを張っているわけでもバリケードがあるわけでもない。 下は背の高い草や木が生い茂っていりが落ちたら痛そうだ。 「じゃあボクとじゃなくてかたミンと繋ぐ?」 「いや意味が分らん」 どうして依澄はそんなにも手を繋ぐ行為にこだわっているのか。 今の私は誰かに手を引かれなきゃいけない程弱って見えるのか。 たまにこの子の思考回路が未だに理解出来ない時がある。 稔を見ると、苦虫を噛んだような顔ってこういう顔かなぁ、という表情をしていた。 周囲からどう見られるか考えたらそういう顔になったんだろうけど、ちょっとショック。 私に触れるのがそんなに嫌なの!? 酷いわ! とか思ったので。 「かたミーと繋ぐー」 「だから何でだ!?」 何でかって? 理由は簡単。嫌がらせです。 体調を心配してついててくれてる稔に恩を仇で返す私。 依澄の手を離して、嫌がる稔の手を無理やり掴む。 あ、そういえば内海くんは? と後ろを振り返ると口パクで彼は言った。 『俺の事は気にしなくて良いから』 と。絶対言った。私に読唇術なんてないけど、こいつ絶対そう言った! ニヤニヤやめぇい! 「それじゃボク達も」 当然のように依澄が後ろに下がって内海くんに手を伸ばした。 「何でだよ!?」 ばっと手を背に隠した内海くん。 やっとあたいの気持ちが分かったかよ。 依澄と会話してるとみんな「何で」のオンパレードだなぁ。 私は慣れてるから、ふふふって笑って流すけど。最上川の如くすべてを流しつくすけど。 どうしてうつミンがそんな嫌がるのか解せない。 そんな顔で依澄が宙ぶらりんになった自分の手を見つめている。 別に手が汚れてるから断られたとかじゃないからね。 依澄と内海くんの価値観の相違の隣で、恋人繋ぎをしようとやっきになる私と、意地でもさせない稔が無言の攻防を繰り広げている事もお忘れなく。 前 | 次 戻 |