▼10 あの後、無理やり席に着かされた私達は甲斐甲斐しく先輩方に世話されました。 「お嬢、おしぼりです」 「坊ちゃん、喉が渇いてませんか」 「てめえら! 坊ちゃんがアイスコーヒーをご所望だ! ちんたらしてねぇでさっさと持って来い!」 等々、つきについてドスの利いた声で給仕してくれるのね、黒い人達が。 私が頼んだケーキをホールで持ってきてくれて、その場で切り分けてくれるんだけど、ナイフじゃなくてドスだったり。 いや怖いから。 唯先輩はというと、若頭という設定らしく他のクラスメイトさん達から「若」と呼ばれてふんぞり返っていた。 テーブルにどっかり足を乗せて座り、たまに何故か手にしているドスを微妙に揺らして、暗幕の隙間からもれる光を反射して私達に当ててくるという、地味な嫌がらせをしてただけだった。 だから怖いから。 これ絶対、企画段階の悪ふざけでみんな盛り上がっちゃって、よっしゃコレで行こうぜ! ってその場のテンションで決めちゃっただけだよね。 実際やり出したら「あ、ヤベ、これスベる……」って誰しもが何となく気づいてたけど、もう言い出せなくなって強行したってパターンだよね!? まぁその、唯先輩が意外とクラスに馴染んでたのを見て、ほっこり出来たので良しとしようか。うん。 更にその後、そろそろ帰らないと地元戻るの遅くなるよっていうか、あんた一体何日くらいこっちに滞在してたの? 皆さんさすがに心配してんじゃないの? ていうか実際何しに来たの? というウタを引き摺って校門まで行って。 来れたんだから1人で帰れるよね。 「ね、ウタ」 「……帰れるけど」 ものっすごい不満そうに頬を膨らます仕草がハムスターのようだ。 なによこの可愛い生き物。とっとこウタたろうめ。 「次は冬休み?」 「うん? ああ、そうだね。冬休み実家帰るからその時また遊ぼうね」 「約束」 噛み締めるように言ったウタに手を振る。 別に私もさっさと帰って欲しいわけじゃない。 だけどズルズルと別れを惜しんでいると、ウタの為にも良くない。 ここはビシッと区切りをつけないとです。 校門よりこっちはBL萌えライフ、外は世知辛い現実! 「おっや、あんた等さっきのー」 一際明るい口調で声を掛けられた。 どことなく特徴のある調子に振り返った私とウタは、同時に発信源を指差して 「なんちゃっての人!」 と大声で言いました。言っちゃいました、ごめんなさい。 前 | 次 戻 |