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「でも、だから何だってんですか。それとこれとは」
「頼み方があるっつっただろ?」

 勿体ぶった言い方に一瞬意味を測りかねた。
 
 何がしたいんだ。いやさせたいのか。
 私が何かするの?
 急に嫌な予感がひしひしとしてきたよ?
 
「ん?」

 ん? って! 西さんがん? って言った!
 
 普段なら悶える所だけど、今はとても逃げ出したくなるくらい怖いのはどうしてだろう。
 
「西さん」
「あ?」

 分かっちゃったぁー。
 何させたいのかピンと来ちゃったー。
 
 マジでか。マジで言ってんのか西さん。
 
「……いや、それはちょっと」
「俺に高鳥を止めさせたいんだろ?」

 ええそう、こんな無駄な事に割いてる時間なんて本当はないんだからね!
 こうしている間にもウタが外で暴れてるかもしれないって言うのに。
 
 本当はどうでもいいくせに、私が嫌がるだろうって理由だけのためにこの人は。
 
 その通りですよ、嫌ですよ。ていうか恥ずかしい。
 だけどウタの事を出されたらどうしようもないのもきっと西さんは計算ずくだ。
 
「お願いウタを止めて……お兄ちゃん」

 私が初めて西さんと会った時の呼び方。
 
 私にとって西峨唯という人は正義の味方で、信頼できるお兄ちゃんだった。
 
 過去の話。お兄ちゃんを西さんと呼びだした頃には既に恐怖が勝っていた。
 
 小心者で怖がりな私には、不良のリーダーとしての彼は、それまでの気持ちを相殺してしまうくらいに怖かった。
 
 だけど不良でなくなった西さんはもう西さんじゃない。
 
 呟くように乞うた私に、彼もまた小さく囁いて。
 
 そのまま私の横を素通りして出ていった。
 
 教室に一人残された私は呆然と動けずにいた。
 
 彼は言った。
 
「そうきたか」

 と。
 
 ですよねー! 普通に西峨さんとか先輩とか、他に言いようがあったよね!
 
 テンパると人って思いもよらない方向に思考がぶっ飛ぶもんだ。
 まさか何年かぶりにお兄ちゃんとか呼ぶ羽目になるとは。
 
 あの時は小学生だから許容されてた部分ってのが大きかったと思う。
 高校生になって他人にお兄ちゃんなんて。
 
 二次元の世界じゃないんだから!!
 
 ぎゃぁぁぁっ、このほとばしる羞恥心をどうすればいいの!?
 今人前になんて出れない。顔真っ赤だもん。
 
 二度と西さんに会いたくない、顔見たくない、いや見られたくない!!
 
 絶対あの人これをネタにからかってくるもん!
 
 だぁぁぁぁ、ウタの事は西さん……もう西さんじゃないか。
 なんて言えばいいんだ、お兄ちゃん呼びは却下で。封印する方向で。
 
 よし、唯先輩にしよう。
 なんか某軽音部の人みたいで可愛いじゃん。ぷぷぷ
 
 ウタの事は唯先輩に任せて私もう稔達のところ帰っていいかな。
 あそこは私のオアシスだよ。
 
 

end

'12.6.21^12.11.8
 


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