「で、そのお姉様は? もう帰っちゃったの?」

 会いたかったのに。久しぶりにお姉様節がさく裂してる所を眺めていたかったのに。
 
「んー行っちゃった……」
「そっかぁ」
「イケメンがいる気がするって言ってどっか行っちゃった」
「そっか!!」

 さすがです、お姉様!! ぶれない。実に彼女はぶれない人だ。
 この依澄を前にしてイケメン探しに行っちゃうとか。目が肥え過ぎだろ。
 
 運が良けりゃ会えるかな。
 
「イケメンで思い出した。依澄さぁ銀髪ですっごい綺麗な顔した男の子見なかった?」
「見たよ」
「マジで、どこで!?」
「え、そこ」

 なんでもないように依澄が指さす方をバッと向く。
 
 案外近くにいたぁぁぁっ!
 
 見たっていうか現在進行形で見ている!
 私達が立っているのは玄関先で、そこからズドンと校門までを屋台が並ぶ。
 そのど真ん中にウタはいた。
 
 私達からは良く見えるけど、ウタからは見えないという絶妙の位置関係。
 
 そしてウタはまた何人かの男達に囲まれていた。
 
 行く先々でどうしてウタはああも揉め事を起こせるのかな!?
 どんなトラブルほいほいだよって話だ。
 
 そんなスキルは曲がった事が大嫌いな熱い少年漫画の主人公が持ってるだけで十分なんだよ!
 
 ウタはどっちかっていうと冷めてる方でしょうが。
 中学の時なんて――ってそんなのは今どうでもいい。
 
「あの人に用事があるの? 呼んできてあげようか?」
「バカな真似はおよしなさい! あの中割って入っていったら依澄なんて瞬殺されちゃうよ!」
「うーん困ったねぇ」

 首を傾げたらウサギの耳がぶらんと垂れた。
 真剣に悩んでる? と問い質したくなる姿だなぁ。
 依澄だけでもそうなのに、このウサギの着ぐるみがどうにもこうにも緊迫感を全てそぎ落としていく。
 
 ウタの騒ぎを遠巻きに皆が見ているけど、私達の近くにいる人達は依澄に気づいてこっちをチラチラ見てくるくらい、悪目立ちしている。
 
 ……着ぐるみ?
 
「それだ!」

 このひらめきはキテレツも顔負けの、画期的なものだ。
 
 垂れたウサギの耳をむんずと掴み、力の限り引っ張った。
 スポン、と顔の部分だけが依澄から抜ける。
 
 思った通り頭と胴体は別々だったか。
 
 そしてもぎ取った頭を私に装着!
 
 しかし顔ははっきり出てしまうわけだから、そのままじゃ意味ない。
 だから前後ろを反対にして被ってみた。
 
「どうよ依澄!」
「カナ?」
「ねぇ依澄どう? これだと私が誰だか分かんないよね!?」
「え? 何か言った?」

 どうしたの? 依澄が何も答えてくれない。
 というか何も聞こえないし見えない。
 
 ちょっと歩いてみる。
 
 あれ、私今どこ向いて歩いてるの? 進めてるの?
 手を宙に這わしても空振るばかりで何の頼りにもならない。
 
 暗闇の中、不確かで足元も覚束ず手さぐりで進むのは、まるで人生そのものを現しているかのようで私はこの世の真理に触
 
「カナ」
「あ、依澄」

 物思いにふけっていると急に視界が開けた。
 依澄の両手にはすっぽりとウサギの頭が収まっている。
 
 おやまぁ、あるべき主の元へと返ってしまったようだ。
 
 つまり私の頭から今度は依澄が頭を奪取。
 彼はにっこりと笑って
 
「カナ、他の案考えようか」

 と述べた。
 
 依澄に否定されるほどこの案は酷かったのか!!
 
 ちくしょう、周囲の皆様の目がさっき依澄見てた時より数倍痛いんだぜ!!
 



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