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 西さんは私の前髪をさらりと横に流して顔を確かめるように眺めてから、やっぱりニヤリと悪人の笑みを浮かべた。
 
「なるほど?」
「ザ・ワールド秋の祭典スペシャル、なんつって」

 ビタンッ!
 
「いぎゃっ!」
「言うと思ったわ阿呆」
 
 前髪が流された事で顕わになった額を思い切り引っぱたかれた。
 
 そりゃぁ西さんにしたら加減しただろうけど、てか400分の1スケールくらいだっただろうけれども!
 私にしてみりゃ普通に痛かった。
 
 おでこを押さえて被害をアピールしても魔王様はさして悪びれた様子もなく。
 
「こりゃ誤魔化すわけだな、何やらされてんだお前」
「いやまぁ、姉が一枚噛んでないとは言わないですけどね。親公認ですから」
「バ家族が」

 く……っ、否定できない。
 ああもう今日の西さん機嫌良いなぁ。
 ちょっと楽しくなってきたけど、そろそろヤバい。

「えぇと西さん、オレ等そろそろ行かないと授業が」
 
 つか西さん授業は? とか今更っていうか愚問?
 そわそわする私の耳元に顔を寄せ、西さんは小さな声で囁いた。 
「俺がいっつもどこにいんのか、知ってるな?」

 西さんは弧を描くように目を細め、その言葉の意図するところを私に教えた。
 
 
 全く、板宿先輩の女の勘は何て精度なんでしょう。
 私にもその一部を分けていただきたい。
 
 板宿先輩は何故か私がC棟に行っていないか聞いてきた。
 知っている人は知っている。
 資料室と成り果てているC棟を、西さんはどういうわけか我が物顔で牛耳っている。

 このお坊ちゃま校において、硬派で見た目に悪な西さんは異色だ。
 それに憧れる生徒は意外にも多く、西さんという存在はあっさりとこの学園で容認されてしまったらしい。
 
 かといって群れたりするわけではなく、西さんはあくまで一人。
 やっぱり良い家のお坊ちゃま育ちの多いここの生徒には西さんは灰汁が強すぎて近づくまではなかなか出来ないらしい。
 そう思うと三下くんはすごいよね。
 
 C棟を使ってるのは一部では有名で、しかし大概が一人でらしい。
 孤高の人だね!
 
 というわけで、西さんがいつもいるという場所へ。
 来いと。
 今度は私の足で西さんの所まで来いと、そういう事だろう。
 脅しの意味合いは含まれていないと思う。
 行くかどうかの判断は私に任されている。
 何時までとか期限だってない。
 
 けれども西さんの中では私から会いに行くというのは決定事項。
 
 何なんだろう、その自信は。自分を一切疑わないその姿勢は。
 一人で西さんの所に行くなんてそんなデメリットのみの行動を起こすとでも?
 
 絶対行かないんだから!!
 行ったら西さんと受けっ子がイチャコラしてるってんなら足繁く通うがな!
 
 
 

end

'11.7.29^12.1.22
 


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