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「ああぁーっ!! テメェやっと見つけたぁ!!」

 無駄にデカい声を轟かせ、駆け寄ってきた人物が迷わず私の肩を掴もうとした。

「!?」

 けれど私は先に彼の腕を奪い後ろに捻り上げてみた。
 昔ショカさんに習った護身術がこんなところで役立つとは。
 
「いってぇぇぇ何しやがんだ!!」
「いやこっちのセリフだから。あんたに乱暴に肩掴まれて脱臼でもしたら大変じゃない。やられる前にやれって心の師匠ハムラビ様の教えで……」
「やられる前にやっちゃったら、完全に堂島が加害者だろ」

 それもそうか。
 ぱっと手を放すと、大げさに彼は前につんのめった。
 いちいちリアクション大きい人だな、どこの新喜劇出身でしょうね。
 
「で、オレに何か用ですか」
「俺はテメェになんざ用はねぇよ!!」
「ねぇうつミン、この人とのコミュニケーションの取り方教えて! ルールルルでいいかな!?」

 さっき私の事探してる風な口ぶりだったよね!?
 何なの、この三下。
 もう他人に噛みつくしか能のない不良ってこれだから嫌なんだ。理屈が通らないったら。
 
 あんま態度が酷いようだと上司さんに訴えちゃうよ。
 「ちょっとあなたじゃ話にならないのよ、上の人呼んでくださる?」ってクレームつけちゃうよ!?
 
「堂島って高等部からだろ? 知り合い多いんだな」
「知らないよこんな人!」

 いや顔は分かる。入学してすぐ顔見知りにはなったけど、名前知らないんだよね未だに。
 
 そう。彼は寮の依澄の隣室で、しかも私と地元が一緒で夏休みに偶然にも出くわしてしまったあの人です。
 
「……ごめん熱くなり過ぎた。大人げなかったねオレ。冷静になろうお互い。冷静にさっさと要件を言ひたまへよ、ちみ」
「殺すぞテメェッ!」

 殺すとか死ねとか、簡単に脅し文句として言っちゃうのがさぁ。三下だってのよね。
 重みがないのよセリフに。
 
 でも彼はこうやって馬鹿にすると楽しいという事に気づいた。
 
「ほぉら早くしないとオレ行っちゃうよぉ? 何か言う事あるんじゃないのぉ? ほぅらほぅら」
「マジで一発殴りてぇ」

 怒りでふるふる打ち震える三下くん。
 
「つーか殴る、男ならそんくらいの覚悟があって人おちょっくってんだよなぁ!?」
「んなもんオレが持ってるように見えるか!?」

 良く見ろよ! 私は女だ!!
 
 私のジャージを掴んで引き寄せると、握り拳をわざとらしく顔に近づけてきた。
 
「伸びる! ジャージ伸びるから!!」
「言いたい事はそれだけかっ!」
「お前等その辺に――」

「おい」

 時間を止める魔法は実在した。
 短いたった一言で私達三人は動くことが出来ず、まるで静止画のように直立不動に。
 
 場の空気を一瞬で凍らしてしまう、全てを根こそぎ掌握してしまう力を持った声。
 
 そんな芸当が出来る人を私は二人しか知らない。
 そのうち一人はここにいるはずがなく。
 
 もう一人は
 
「西、さん……」

 着崩した制服のズボンに両手を突っ込んで、無表情にこちらを眺めている西峨 唯。
 
 この学園で、最も会いたくない、遭っちゃいけない人。
 


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