子供たちは七海達について行ったのだろうか。

 ギンとシャクが忽然と消えた事を気にしたのはほんの一瞬で、朝陽はすぐに頭を切り替えてテレビを観始めた。
 
 折角一人なのだからゆったりソファで寝そべってやろうと体勢を変えようとした時だ。

 メキメキメキ、と木が軋み折れる不吉な音がし、目の前のテーブルに巨大な塊が落っこちてきた。
 
「のあぁぁーー!! な、なに!? ゲホッ」

 砂埃が舞う中叫んだせいで咽た。今正に転ぼうとした体勢のまま唖然とする。

 上を見上げると二階の天井からすっぽりと穴が開いていて、夜空が覗いていた。もう一度視線を戻すと、テーブルがあった場所には動物がぐったりと横たわっている。

 テーブルからはみ出すほどの巨体だ。朝陽は音を立てないようにそうろりとその場を退いた。

 動物から目を離さず後ろへ徐々に下がる。ゆっくりゆっくりと心の中で唱えていると、腕を引っ張られた。

「ぎゃぁっ!」

 悲鳴を上げた朝陽に、引っ張った方が驚いてビクリと肩を揺らす。勢いよく横を向くとおろおろとしたシャクがいた。

「あ、あんた七海と行ったんじゃなかったの」 首を横に振る。

「邪です」
「ジャ?」

 ああ七海達となんかそんな事を言っていたか。自分には関係のない話だと思い殆んど聞いていなかった。
 シャクが指した動物は緩慢な動きで立ち上がった。犬。
 狼よりも立派な体格をした犬だった。
 悪いものだと言われなくても分かる。

 本来白かっただろう体躯をどす黒い煙のようなものが覆うように取り巻いている。

『邪』

 シャクの言った意味を理解した。

「危ないからのいとけー」

 屋根から飛び降りてきたギンは真下にいた邪に踵を落とした。よろめいた自分よりも大きな獣の前足を掴み円盤投げの要領で前に飛ばした。

 ギンが向いていたのはキッチンの方で、つまりは邪はキッチンの壁に取り付けてあったガラス戸棚に激突し見事に破損させたのだった。

「さっきからなに人ん家破壊してんのよ! ていうか何でコイツここに来てんの、隼人くん出てったじゃない」
「邪は襲うばっかで考える力あんまない、から。多分神気につられて、ここ来た」
「頭が弱いのね、へぇ。……神気? てことは……犯人はお前等だぁー!!」

 シャクはビクリと怯える。逆にギンは胸を張った。

 邪はこの二人に引き寄せられてこの家にやってきたのだ。人間の身体に入っている隼人よりもこちらの方が邪にとっては強烈だったのだろう。

 手伝いに来たと言いながら、むしろ余計に事態をややこしくしているではないかと、朝陽は頭の血管が切れそうになった。

「もういい。いいからさっさと邪ってのをどうにかして」

食器類は既に全滅に近い。リビングの上である七海の部屋は諦めるとして、これ以上雨風の凌げない家になどにされては堪らない。



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