「本質的な部分は同じなのだろうね」

 まるで七海の心を読んだような言葉だ。恐る恐る男を伺うと、にぃと口の端を持ち上げた。どうやら正解したらしい。今更これしきの事で驚いてたまるかと妙な部分で意地を張る。
 努めて平静を装ったが心を隠せない相手には無駄な抵抗。一笑されて終わった。

「……それで何しに来たんですか」

 ぶすくれながら無垢の男を睨む。

「暇つぶしだ」
「帰ってください!」

 そんな下らない事のためにわざわざ夜中に窓ガラスを割ってまで来ないで欲しい。
 枠だけになり、風通しのよくなってしまった窓を指す。

「という前置きはこのくらいにしておいて、そろそろ本題に入ろうか」

 とんでもなく絡みづらい。七海は内心で零した。相手に伝わってしまっただろうが、思いは制御できない。

「まずはこの子等だ」

 すっかりベッドがお気に召して寛いでいた二匹の狐の首根っこを持ち上げ七海の前へ出す。

「この前は不肖の息子共が済まなかったね。ほらお前達も謝りなさい」

 だが銀狐はぷいと顔を逸らし拒絶の意思を示した。赤銅はそんな片割れと七海を交互に見やっている。
 分かりやすいその仕草に七海は苦笑いをした。

「何だい私に反抗する気かね、己は悪くないとでも?」

 狐達は悲鳴を上げた。頭に置かれた手の指がめり込んでいるらしい。
 放たれる声は穏やかなのに、目は微塵も笑っていないのが逆に怖い。七海まで震え上がる。

「容易く引きずり込まれるのは心の弱い証拠だ。それは罪だよ」

 そう言うと力一杯狐達の頭をベッドに擦りつけた。

「きゃーっ! 鼻が……鼻ひしゃげてますけど!」
「素直に私の言葉に従わないからさ」
「大丈夫です! 怪我もしてないしいいです、止めてあげてください」
「そうかい」

 あっさりと手を離すと二匹は大慌てで七海の後ろに隠れた。

「お前みたいなのをお人好しと言うのかね」
「は? いえ知らないですけど……」

 自分がそうであるという自覚はないし、普通ははいそうですと答えるものでもないだろう。

「蒸し返すわけではないのだが、親心から一つ言わせて貰うと、あの時のこの子等は糸に掴まっていたのだよ」
「糸?」
「何に釣られたのかは知らないが、簡単に絡め取られてあの様さ」

 例えが抽象的過ぎてついていけない七海だが、頭の中で想像を張り巡らせた。

「えーと、えー? つまり誰かに操られてた……?」
「正確には使役されていた、と言うね。もともとその為に産まれてきた子等だ。逆らう力は殆んど持ち合わせていない」

 誰かが明確な意思を持ち、この狐を使って七海達を襲わせた。勇人は本気で殺す気だったと言っていた。
 サッシの無くなった窓枠から吹き込んできた風は生温いのに、七海は芯から冷えていく。
 どうして七海がこんな目に合わなければならない。
 片手で顔を覆う。最近狐が関わる事が多い気がする。勇人もそうだ、狐が憑いていると言っていた。

『簡単に使われやがって阿呆が』
『誰が主人かも分からなくなったか? また一から教育し直した方が良さそうだな』

 あの時勇人は狐達の事を知っている風な口ぶりだった。



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