道路を挟んだ先に煌々と明るい光を発するコンビニエンスストアが見えた。
 自動車が通り過ぎるのを待つ。

「何を買おうかなぁ」と思考を既に切り替えてしまっている七海は凡人ではないと思わされた。七海の言う通り、彼女の家族もまた然り。

 あの時の勇人は焦りに苛立っていた。思い返せば七海の最低だという台詞も当然な行動を取っていた。怖かったに違いない。流した涙は生理的なものだけではなかったはずだ。

 おいそれと「それも人生」などと片付けられるものではない。
 今日は面食らってばかりだ。

「勇人? ほら行こう」

 信号のない交差点。車が途切れるタイミングを見計らっての危うい横断。さほど広くは無い道路だが交通量はそこそこあって機を逃せば数メートル先のコンビニに辿り着くのにどれだけ時間が掛かるか。

 もう既に視界の端に、車のテールランプが近づいてきているのが見える。ぼうっと突っ立っている勇人を促して駆け出した。

 駐車場に到達して速度を緩めようとした瞬間、後ろから呼ばれた七海は振り返ると同時に肩を突かれ、飛ばされるように地面に倒れこんだ。

「いった……」

 一切クッション性のないアスファルトにぶつかった衝撃と、咄嗟について擦り傷だらけになった手から痛みが走る。

「何すん……の」

 地面に座り込んだまま、突き飛ばした犯人であろう勇人を振り仰ぐ。
 だが勇人よりもまず目に入って来たのは、眼前で牙を剥く獣だった。息を呑む間も与えられないほどの距離だ。
 
 だが悲鳴を上げたのは獣の方で、七海は勇人が獣を蹴りつけるのを尻餅をついたまま呆然と見ていた。
 もし、突き飛ばされていなければ七海はどうなっていたのか。想像しただけで冷や汗が伝った。

「平気か」
「う、うん」

 差し出された手に自分のものを重ねる。ずきりと傷が痛んだが、見上げれば勇人は無事だったようで安堵の息を吐いた。
 そして漸く初めて自分がずっと呼吸を止めていたのだと知った。酸素不足のために早く脈打つ心臓をどうにかしたくて大きく空気を吸い込む。

 身体を捻って地面に着地した獣と、それ以外にもう一匹いたらしく、勇人にやられたところを労わるように身体を擦り付け合っている。
 大きさは犬くらいだが違う。猫でもない。

「キツネ……だよね。え、え、野良キツネ? てかこの辺キツネなんて生息してるもんなの!?私初めて見たんだけど! ねぇあれって珍しいよね!?」 

 何が起こったのか理解出来ない七海は答えを求めるように勇人を見た。


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