「息子……勇人もまた七海さんと同じ視える体質、なのです」
「視えるとは」
「実態の無いモノ、幽霊や妖怪といった類のものが」

 はっきりとした答えを明示され、はぐらかす事も出来なくなった美弥子は、ふうと息を吐き出し問答を止めた。
 七海はただ驚くばかりだ。

「半分答えがずれていますが、いいでしょう」

 どうして貴方が七海の事を知っているのか。そこまで含めて聞きたかったのだが、榊は答える気がないようだ。
 
 事実知られてしまっているのだから、理由など大した問題ではないだろうと深く言及はしない。

「……この子は自分の視える目を嫌っております。私にはこの子の苦しみの1ミリも理解してやれませんので、その分そういったモノに極力接っせずに済むよう心掛けているのです」

 これまで語られなかった母の胸のうちを聞いて、七海は心が熱くなった。

 自分が異質なものを視ているのだという自覚は幼い頃からあり、そんなものが視える七海こそが異質であるのだと認識していた。みんなと違う。
 
 私がおかしい。私の目が変なんだ。

 だから視えないものとして振舞うようになっていった。
 七海が物心つく前から霊感がある事を察していた家族は、七海が触れたがらない事も何も告げる前から感じ取っていて、これまでもさり気なく庇ってくれていた。何だかんだと言って藤岡家にも家族の絆が存在する。
 というより家族間で無条件の思いやりを失ったら最後だと七海は思う。

「お母さ……」
「勿論、こちらも七海さんの苦痛に見合うだけのものをお返しさせて頂こうと思ってはいます。お金で解決しようなどと無粋とは承知しておりますが…」
「お引き受け致しましょう」
「終わった! 家族の絆壊れた! でもそうなると思ってた!」

 三度の飯より現金。誰が何と言おうと守銭奴である美弥子が断るはずがない。いや、この提案を榊にさせるための小芝居であったのだろう。

「七海、よく覚えておきなさい。地獄の沙汰も金次第なのよ!」
「身も蓋もない事誇らしげに言うな! その手で円作るのやめてよ生々しい!」

 親指と人差し指の先をくっつけて円を作り、硬貨に似せている美弥子の手を叩いて下げさせる。

 母子の漫才に榊は呆気に取られ、そして無意識のうちに笑ってしまった。話の内容は置いといて、あけすけに話が出来るなんて仲が良い。こんな風に自分達親子もなれていたならば、何か変わっていただろうか。

 くすりと漏れた声に七海達が榊を見た。
 
「すみません、楽しげだったのでつい」
「いえ、それよりも七海、見るくらいなら何とかなる? あなたの出来る範囲の事をするだけでいいのよ」
「……うん、見るだけなら」
 
 見る事は出来る。瞳に映すだけだ。が、診るとなれば違ってくる。素人の七海が出来るのなんて本当に埃みたいな霊を払い除けるくらいのものだ。
 悪霊を追い払うだとか、そんな芸当を当てにされては困る。プロに言ってもらわなければならない。
 
 これを生業としている人達は、修行と鍛錬の積み重ねによって技を習得するのだ。ただ日々をのうのうと暮らしている七海にそれが出来るはずがない。

「その……憑かれてるっていうのは本当なんですか」
「そこも含めて判断してもらいたいんだ。私共ではさっぱりでね」
「分かりました、けど、ちゃんとした人に頼んだほうが……」

 榊は眉尻を下げて力なく笑った。そうすると酷く疲れているように見えた。

「出来るのならばそうしたいのだけれど、ね。さて用意が整ったようなのでまずは食事でも」

 七海は美弥子と顔を見合わせた。引っかかる言い方をしたものの榊はその先を言う気はないらしく、穏やかに笑んだ。




end

'10.4.19



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