呪い付きの血統書
15
「−−−ん?」
無数の書物が詰まった本棚がひしめき合う、書庫の中。アカリは読み耽っていた手元の本からふと視線を上げ、辺りを見渡した。
「…………今何時だろ」
日光は書物を痛めるため、この書庫には窓が存在しない。ふわふわとアカリの周りを漂う魔法で作り出した光の球体を指先で引き寄せ、目の前にある本棚から数冊選び取り、読み途中だったものと共に腕に抱えた。
球体の光を頼りに扉を開き、廊下へと出る。
仄暗い部屋に長時間いたせいか、嫌に廊下が眩しく感じ、球体を消し去り瞼を擦った。
アカリは大きく伸びをしながら目くらまし呪文を自分にかけ、自室へと足を向けた。
ふと廊下に備えられた窓を覗くと、空に広がる紺碧のビロードには明るい三日月が笑っていた。
「こんなに居座るつもりじゃなかったんだけどなぁ」
月を見上げながら呟く。その小さな独り言は誰もいない廊下に反響した。
−−本当は、部屋で読書をするつもりだった。
持って帰る書物を選ぶ際、タイトルだけじゃわからないからほんの少し試し読みをしてみようと一冊手に取ったのが数時間前の出来事。一回集中すると周りが見えなくなるアカリは分厚い書物をどんどん読み進め、気がつくと夜になってしまっていたのだった。
「んー、首が痛い………」
首を回すとコキ、と骨が鳴る。ずっと同じ体勢でいたのが間違いだった。首だけでなく、目も腰も痛い。
衰えたなぁとため息を吐きながら、辿り着いた自室の扉を開けた。
抱えていた書物をテーブルに置き、目くらまし呪文を解く。
柔らかなソファに沈み込みながらテーブルの上の置き時計を視界に入れる。
「20時…………3時間も篭っちゃったのか」
食前に何か本でも読もうかと部屋を出たのが17時。なるほど3時間も篭りっぱなしでは身体の節々が痛くなるはずだ。
ふと、時計から視線を外し、壁に付けられたカレンダーを見る。
日付もわからないのは不便だから、と勝手に取り付けたものだ。
1日を終えるごとに勝手に日付の部分にバツが付けられていくそれは、今日が何日なのか瞬時に分かる優れものだ。
「……………もうクリスマス、か」
ちょうど丸がついている今日から一週間後は、25日−−−俗に言うクリスマスだ。
確かこの世界にやって来たのが7月だったから、5ヶ月が経ったことになる。
時間が過ぎるのは早いものだと感慨深げにカレンダーを眺める。
魔法界でもクリスマスという行事はあるらしい。原作でも学校でパーティーを開いていた記憶がある。
しかし、ここは闇の陣営の拠点。ましてや同居人は闇の帝王様だ。
イエス・キリストの復活を祝うようには到底思えない。
「今年は何もなしかなぁ………」
少し残念に思いながら背もたれに首を預ける。
するとそこにパチン、と音を立てサフィアがやってきた。
「お嬢様、夕食でございます」
「ありがとう、遅くなってごめんね」
わざわざ食器をセットしてくれる妖精に謝罪を述べ、置いてあった書物をベッドサイドのローテーブルに移した。
「いただきます」
習慣となっている挨拶を済ませ、広げられた料理を口にする。
食事が終わるまで、サフィアはいつもそばに控えていてくれていた。
「…………あ、ねえ、サフィア」
もぐもぐと口の中のものを咀嚼し、飲み込むとサフィアに尋ねる。
はい、と返事を返すサフィアなら、ここに仕えているのだから知っているだろうという魂胆だ。
「卿ってクリスマスは祝ったりしないの?」
「……………去年は何もせず、いつも通りお過ごしになっていました。」
そう返された返答は、予想していたもので。ああやっぱりなぁ、と零しながらナイフを器用に使いハンバーグを切り分けた。
「そうだよね、闇の帝王様がクリスマスなんて祝うわけないよね」
仕方ない、残念だけど諦めるしかない。
切り分けたハンバーグを一切れ口に入れ、咀嚼する。
肩を落とすアカリを見て、思案するように大きな瞳を伏せたサフィアは、やがて口を開いた。
「お嬢様なら、良いのではないでしょうか」
「え?」
水を飲もうと傾けたコップをそのままに、アカリはサフィアに聞き返す。
神秘的な青を瞬かせ、サフィアは小さく言う。
「去年までは、確かにクリスマスを祝うことはありませんでした。
しかし、今年はお嬢様がいらっしゃった特別な年。お嬢様ならば、許されるのではないでしょうか」
妖精の言葉は、まるで魔法がかかっているのではないかと思うほど、すんなりと心に入ってくる。
サフィアの言葉をすとんと受け止め、アカリは思案した。
「そう、かな。…………そうだね」
特別な年。そうだ、何を恐れることがあるのだろう。毎年祝わなかったからといって、それに大人しく従うなどわたしらしくない。
「それじゃあクリスマスに向けて準備しないと」
卿には内緒でね、とサフィアにウインクをすると、心得たと言うように妖精は穏やかな笑みを浮かべた。
****
「−−−郷に入っては郷に従え、って言うしまず英国のクリスマスについて学ばないと」
あいにくわたしは日本での祝い方しか知らない。しかしここは英国。それならば英国式のクリスマスを準備する必要があるだろう。
「サフィアはよくわからないって言ったし、ルシウスにでも聞こうかな」
引き出しから便箋とインク、羽根ペンを持ってくると手紙を書き始める。
すっかり慣れた羊皮紙の感触をペン越しに感じながら、文字を書き付けていった。
『−−ルシウスへ
久しぶり、もうすっかり冬ですね。
雪はまだ降っていないものの、朝起きにくい季節になりました。
さて、今日手紙を書いたのは一週間後に迫ったクリスマスについてです。
実は屋敷でクリスマスを祝おうとしてるんだけど、英国のクリスマスってどんなものか知らないから、ルシウスに聞こうと思って。どんな些細なことでもいいから、教えてくれると嬉しいな。
ルシウスへのプレゼントはわたしがちゃんと選んで当日贈るからね!期待して!
アカリ』
普段より短い急を要する手紙を書き上げ、インクを乾かす。
乾いたところでくるくると便箋を丸めていると、アカリはあ、と声を漏らした。
「…………フクロウ、どうしよう」
手紙が届いてからその場で返事を書く方式をずっと繰り返していたアカリは、もちろん自分のフクロウなんて持っているはずもなく。
手紙を送る方法がないことに気づき、半ば絶望していた。
「…………お嬢様、手紙ならば私が」
「え、サフィア届けられるの?」
「ルシウス・マルフォイ様でよろしいですね?」
うん、と半信半疑でアカリが頷くと、サフィアは指を鳴らす。するとアカリの手の中にあった手紙が一瞬のうちに消え失せる。
「ルシウス・マルフォイ様のお部屋にある机の上に置きました」
「サフィアすごい……!」
わあ、と手を叩いてアカリが褒めるとサフィアは照れ臭そうに視線を落とす。それではこれで、と丁寧にお辞儀をすると姿をくらませた。
「さーて、あとはルシウスの返事が来るのを待つだけだな」
今わたしにやれることは何もない。
そう判断したアカリは、シャワーを浴びるべくバスルームへ入っていった。
****
「………う、」
コツコツ、という何か硬い音が耳に入り、アカリは眉をひそめる。
心地の良い微睡みから強制的に覚醒させられ、薄目を開け窓を睨む。
音は確かに窓から聞こえるようだ。
毛布を鼻の上まで引き寄せると、そのまま魔法で窓を開ける。
すると一羽のフクロウが窓から入り、天井で旋回するとベッドの縁に降り立った。
『ほら、手紙だよ。はやくはやく』
「んー…………まって……………」
口に咥えていた包みを枕元に置くと、そのフクロウはアカリを急かす。
アカリは寝ぼけながらフクロウが差し出している足に触れた。
やっとの思いで手紙を取り外すと、フクロウはため息を1つ吐いて飛び立った。
アカリは億劫そうに上半身を起こすと、目にかかる前髪をくしゃりと掻き上げた。
大きく伸びをして封筒をひっくり返すと差出人の名前に目をやる。
「…………ルシウスだ」
指先でペーパーナイフを呼び寄せると蝋で固められた封を切り、中の便箋を取り出す。
上質な便箋だ。そのなめらかな質感を指で感じながら、流れるように美しい文字を読み始めた。
『−−−アカリ様へ
お久しぶりです。こちらでは、もう雪が降り始め厚着をするようになりました。
本題ですが、イギリスの文化について詳しく書かれている本を見つけましたのでお送り致します。どうか、貴女のお力になれますことを願っています。
ただ、クリスマス当日は我が屋敷で開かれるパーティにあのお方をお招きしましたので、祝われるのでしたらイブが良いかと思います。勝手な意見、申し訳ございません。
ありがとうございます、楽しみにしております。私からも、何か贈らせていただきますね。
それでは、良いクリスマスを。
ルシウス・マルフォイ』
Merry Xrithmas、と美しい筆記体で締めくくられたその手紙に目を通し、隣に置かれた包みに手を伸ばす。
包装紙を破くと、中からは一冊の本が出てきた。
英国文化、と仰々しい字体で書かれたその本はまるで辞書のような厚みをしていて、こんなものを運んで来たのか、とあのフクロウを哀れに思った。
アカリは枕を立て置き、そこに背中を預けると膝の上に本を置き、表紙をめくった。
****
「あ〜〜……………終わった終わった」
パタンと膝上の本を閉じ、節々が軋む身体を思い切り伸ばす。
日本との違いが明白に浮き出る情報はとても興味深いもので、結局最初から最後まで全部読んでしまった。
それにしても、身体が痛い。
最近読書のせいで身体を酷使しすぎてる気がする。
目が覚めてからかれこれ一時間、やっと絨毯に足を下ろしたアカリはバスルームで顔を洗うとテーブルを人差し指でコツコツ、と軽く叩いた。
「お呼びでしょうか」
「今日は昼食いらない。それと後で厨房に行くから、よろしくね」
すぐに現れたサフィアにそう告げると、クローゼットを開け放ち着替え始める。
サフィアはアカリの言葉を聞き終えると頭を下げ、すぐに消え去った。
着替え終わったアカリは深緑色のローブを腕に抱え、杖を手にすると目くらまし呪文を自分にかけ厨房へと向かった。
屋敷内を彷徨うときに毎回かける目くらまし呪文の精度は完璧としか言いようのないレベルになっている。
呪文を解いてからコンコン、とノックをして厨房に入る。
そこには広い部屋であくせくと働く屋敷しもべ妖精たちの姿。
よくキッチンを借りるアカリはすでに妖精たちに知れ渡っているため、アカリの顔を見た1人の妖精がすぐにどこかへと走り去った。きっとサフィアを呼びに行っているのだろう。
妖精たちを眺めながらちらちらと視線を投げかけられる度に笑顔を返していると、サフィアがやって来た。
「如何なさいましたか?」
「ここにある食料を知りたくて」
「でしたらこちらに。貯蔵庫をご案内致します」
背中を向けたサフィアの後をついて行くと、奥の方にあった重そうな扉にたどり着く。
そこを開けると、中は真っ暗で何も見えない。
パチリとサフィアが指を鳴らすと途端に明かりが点き、中を見ることができた。
いくつかある棚の中に所狭しと食材が並んでいる。
色々な食材を手にとってみながら、サフィアに問いかけた。
「ここに書いてあるものって全部あるかわかる?」
羊皮紙をポケットから出し、サフィアに手渡す。
それを受け取ると上から下まで目を通し、すぐにアカリに返した。
「大体は揃っていますが、いくつか用意していないものもございます」
「じゃあそれ書き出してもらっていい?買いに行くから」
「こちらでご用意致しますが」
「ううん、わたしが自分で買いに行きたいの」
お願い、ともう一枚何も書かれていない羊皮紙を取り出すと、サフィアに手渡す。
サフィアが指先で羊皮紙をなぞると、いくつかの材料の名前がそこに記されていた。
「ありがとう」
「お気をつけて」
羊皮紙を受け取ると貯蔵庫から出て、そのまま厨房を突っ切る。
こちらに視線を送る妖精たちに手を振ると廊下に出た。
「卿は部屋にいるかな」
再度目くらまし呪文をかけ、卿の部屋へと向かう。
外出の許可を貰うためだ。
これから食材を買いに行こうと思っているものの、ダイアゴン横丁でそんなお店を見たことはない。
そうなるとマグルのスーパーに行く必要があるだろう。
先日、黙ってホグズミード村へ行ったのがバレたことでちゃんと前もって許可を貰おうという考えに至ったのだった。
「失礼しまーす」
ノックもそこそこに扉を押し開ける。
いつもと同じように、机に向かい眉間に皺を寄せながら書類に目を通しているヴォルデモート卿の姿がそこにはあった。
「お前はどうしてそう………」
「ノックしましたよ?」
「返事を聞かずに入ってはノックの意味がないと言っているだろう」
はあ、と頭が痛そうにため息をつく卿に些かムッとするも、すぐに気を取り直し机の前で足を止める。
目の前にいるというのに書類から目を上げない卿は気にせず、本題に入るべく思考を巡らせた。
さて、何と言って切り出そうか。
マグルのスーパーに行きたい、だなんて言ったところで即却下されることは目に見えている。それどころかマグルを目の敵にしている彼のことだ、激怒させることになるかもしれない。
「あの」
「なんだ」
恐る恐る目の前の彼の顔色を伺えば、眉間に皺を寄せたまま短い一言で返される。
ぐるぐると思考を巡らせながらも、それを顔に出さないよう口を開いた。
「今から出かけようと思っていて、その許可を貰いに来ました」
「それで?」
一瞬強く瞼を閉じる。ほんの少しだけ間を空け、再度口を開いた。
「マグルの街に行きたいんです」
「……………なんだと?」
今まで一度も上がらなかった視線が上を向き、アカリを捉える。
眉間に寄っていた皺がさらに深く刻まれ、深紅の瞳がより一層濃く染まった。
「何故わざわざそんなところに行く必要がある?許可しているのはダイアゴン横丁とノクターン横丁のみのはずだが」
先日学んだ教訓は、この人に嘘は通用しないということ。どれだけわたしが巧妙に嘘を吐いたとしても、必ず見破ってしまうだろう。それならば正直に言うべきなのだ。
「クリスマスの準備のためにスーパーに行きたいんです」
毅然と、前を向いて。目は絶対に逸らしてはいけない。声も震えないように。
絶対的な雰囲気に飲まれないよう、自分に言い聞かせながらも言葉を紡ぐ。
「……………クリスマス?」
眉間の皺が少しだけ和らぎ、卓上に乱雑に置かれた小さなカレンダーに視線が向けられる。
ああ、と声を出した卿は次いで合点がいったというような表情を浮かべた。
「もうそんな時期か」
「あと一週間なんですよ、早いですよね」
怒っている様子ではなさそうだと胸を撫で下ろし、アカリは笑いかける。
「だからと言って何故そんなものを祝わねばならない?」
くだらない、と言外にほのめかしながらため息をつかれ、アカリは困ったように眉をひそめた。
「クリスマスはお祝いするものでしょう」
「クリスチャンだけがな」
「わたしは毎年お祝いしてたんです。クリスマスを祝うくらいいいじゃないですか」
何をそんなに意固地になっているのかと語尾を強めると、呆れているようだった卿の瞳が、鋭く細められた。
「私に、反抗する気か?」
低く、そして冷たく変わった声色を聞いてアカリはしまった、と顔を青くさせる。
「従順なうちはまだ遊んでやろうと思っていたんだがな」
鋭く纏ったその雰囲気に、圧倒される。ああ、確かに目の前のこの人は世間を騒がす闇の帝王だ。
残虐で、残酷で、どこまでも冷たい。
−−−でも。
「わたし、は」
震えてしまいそうになる声を必死に押し隠し、唇を噛み締める。
掌を強く握りしめ、緋色の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「わたしは、貴方の従順なお人形でも、玩具でもない。全て貴方の言いなりになる気なんてさらさらない。
いくら貴方がヴォルデモート卿だからといっても、これだけは譲れない」
そう言い終え、唇をきゅっと引き結ぶ。緊張からか、とても速い鼓動を感じながらゆっくりと瞬きをする。
アカリの様子をじっと見ていた彼は、ただ黙りこんでいた。
痛い沈黙が、部屋を満たす。アカリの瞳が困惑に揺れたとき、やっと卿が口を開いた。
「…………いいだろう」
「え?」
「行ってこい、許可してやる」
「え!?」
ぽかん、と口を開けるアカリを見て鼻で笑う卿は、あの鋭さをどこにやったのだというくらい普段通りで。拍子抜けしたアカリはやっと言われたことを理解した。
「じゃあ行っていいんですね?行きますよ?」
「いいと言っているだろう」
「やった!」
思わず手を叩いて喜んだアカリは、どうして許可されたのだろうと不思議に思った。
さっきまではあんなに頑なだった態度が一変したなんておかしいだろう。
手放しで喜べるほど、子供でも愚かでもなかった。
「それじゃあ、行ってきますね」
考えを悟られないようにっこりと微笑みながら、部屋の扉に手をかける。
そのまま廊下へと出て、扉を完全に締め切るまで、ヴォルデモート卿は言葉を発さなかった。
「−−−人形でも、玩具でもない、か」
唇を歪め、喉の奥で笑う。深紅の瞳を細め、つい先ほどまで目の前に立っていた不思議な人間の姿を思い浮かべる。
陽気で、何も考えていなさそうにいつも笑っている女。しかし、反面鋭い洞察力を持ち、頭が切れる。
あの女が自分に対して下手に出なくなったのはいつ頃だっただろうか、とヴォルデモート卿は考えた。
最初は同じ空間にいるだけで萎縮していたというのに、今となっては言いつけを破るほどだ。周りの死喰い人たちとは違う、その毅然とした態度を気に入っていた。
「本当に、面白い」
やはり、手元に置いて正解だった。
そう笑うと、手に持っていた書類を机に置き、袖をまくると現れた闇の印に杖を添える。力を込めると、少しの間をおいて1人の死喰い人が現れた。
「御用でしょうか、我が君」
「あの女を見張れ、漏れ鍋だ」
「畏まりました」
死喰い人は頭を深く下げるとパチン、という破裂音を残し姿をくらました。
誰もいなくなった部屋の中、ヴォルデモート卿は上質な椅子の背もたれに寄りかかり静かに瞼を閉じた。
「そうだな、お前はあいつらとは違う。
人形でも、玩具でもなく、ただの人間として私のそばにいることを許してやろう」
だが、と呟き瞼を開ける。
高い天井を視界に入れ、口角をゆるりと上げた。
「−−−踏み込んできたのはお前の方だ。覚悟は、出来ているのだろう?」
愚かしいことだと、帝王は嗤う。
わざわざ絡め取られに来たアカリも、それに鎖を巻き付けようとしている自分自身も、愚の骨頂だ。
逃す気はさらさらない。私にとってただ唯一の人間として、そばに置いてやろう。
いつまでも、永遠に−−−。
その呟きが、アカリに届くことはなかった。
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