適量の孤独 | ナノ


ちょっとした噂 壱


妙な噂に耳を傾けることが良しとは言えない。
こと男女間においては。
しかし、紅が任務で里を離れている今ならば大丈夫かもしれない。
そんな浅はかな思考を持った俺が男女のだの字もしらないガイに慰められ、未だ床に伏せるカカシにボヤきを入れるまで、あと少し。



「見合い?」

木ノ葉崩しの復興も、暁襲来の現実も冷めやらぬ中で、いやに突拍子もない単語を耳が拾った。
それはある晴れた日の、上忍待機室でのことである。

「あぁ、カカシのコレだ」

そう言って小指を立て息巻くガイ。
今日も出会うなりその暑苦しい風貌に苦笑が漏れるが、そんなことも今の一言で吹き飛んでしまった。

「コレって、沙羅のことか?」
「あぁ」

誰も居ないのだからそんなに身を寄せて来なくても良いとは思うが、ガイは聞かれたらまずいと思っているのか、条件反射からか、そっと俺に耳打ちする体を取った。

「この前店に行ったという後輩がいてな。そいつが女将から聞いたらしい。なんでも大名家のぼんぼんと見合いするとかなんとか」
「それ本当か?」

どうにも信じ難い情報である。
それに、俺やガイはカカシの想い人の存在を知っている。
まぁ、本人は是が非でも口を割らないだろうが、あいつの今までを知ってる身としては、沙羅が本命でなければ男として道を誤っている。という程度にはカカシの態度は分かりやすい。
本人は隠しているつもりらしいが、案外カカシもその手はウブなのかもしれない。
適当に遊び惚けていた罰だと思わなくもないが、出来れば実って欲しいと願うのもまた友としての気持ちである。
だからカカシが寝込んでいる今、妙な噂が立ってしまっていることが不憫で仕方がなかった。
そんな話をしていれば、俺たちは未だ戦力が安定しない里で馬車馬のように働くため任務が振り分けられた。
話をそこそこに切り上げながらも、俺の中にはどうしても見合いという単語がちらついていたのである。





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