そう。俺の悪い癖 壱
のこのこと現れた俺に対して、彼女は毎度盛大に溜息を零す。
「他に行く所はないんですか?」
客に対して発するものとは思えぬ辛辣な言葉を添えて。
「沙羅、その言葉遣い止めたら?」
「お客様にはこんな言葉は使わないのでご心配なく」
そして、何故か機嫌が悪かった。
想像に難くない。
多分、昨夜は自来也様が彼女の元を訪れたのだろう。
もう何年と続く関係である為、機嫌の良し悪しや原因の何たるかは大体把握出来るようになった。
彼女は自来也様が訪れた次の日は大抵機嫌が悪い。
これはもう経験則から来るものだ。
だからそんな日は大人しく手土産の一つでも渡して帰るというのが常であり、彼女の毛並みを逆立たせないコツでもあった。
「寄っただけだからそんな邪険にしないでよ。ほら、手土産」
この様子ではさっさと退散するに越したことはないと判断した俺は、手土産を彼女に渡して踵を返した。
「飲んで行かれますか?」
「え?」
ガラリと変わった口調に動揺し、言葉に導かれ振り返る。
見れば客の通り道である中央を空け、脇に寄る沙羅がいた。
どうしちゃったのさ。
「本当は飲みに来て下さったんですよね。どうぞ、こちらへ」
いつもなら「帰れ」と口に出していなくても聞こえてくるのに。
なんとも気味が悪かった。
兎にも角にも飲みに来た事に変わりはないのだから座敷へ上がることにしたが、妙な居心地の悪さが漂っていた。
まぁ、上手い酒と料理。
それに、沙羅の様子が分かればいいかと納得することで、一人ごちたのだ。
「まぁ、いいか」
と。