適量の孤独 | ナノ


来訪者 壱


カカシさんが倒れ、その原因が暁だと知り、ナルト君が自来也様に匿われているかもしれないと推測した矢先。

案の定、自来也様はナルト君と行動を共にしているという情報を手に入れた。
いつものように仄かな灯りが灯る室内でお酌をしていると、お客の中にいた一人の忍が自来也様とナルトが一緒にいるところを見たというのだ。
それだけではない。
二人揃って仲良くあうんの扉を出て行ったと言うではないか。
このタイミングで木ノ葉を出るなど危険すぎる。
いくら自来也様といえど、相手はビンゴブックS級の犯罪者ばかりなのだ。
しかし、そうは思っても今の私には出来ることなど何も無いということは、なんとなく想像出来ていた。
何故なら出て行ってしまった以上、私には居場所を突き止めるスキルも、二人を止める手段も持っていなかったからである。

あれ以来、自来也様とは一切顔を合わせていない。
目立つ容姿である筈なのに、噂話もこの程度である。

会いたい。

話したい。

触れたい。

「したい」という感情は毒そのものかもしれない。
毒である故か、シンプルなくせに始末が悪いのだ。
始末が悪いと理解していながら、心は一つも言うことを聞かずいつものようにふつふつと湧き出てくる。
そんな気持ちを宥めすかすように知らずのうちに出てくる溜息は、お客からの心配の声を招き、女将からの叱責を頂戴した。
木ノ葉に大木がいない状態でも、私はそんなことを考えていられたのだ。
それは、三代目の葬儀の時、自来也様に心の内をこれでもかと吐いていたおかげかもしれない。
三代目が亡くなった事実は、今でも重くのしかかっている。
この下肢にまた一つ重りが加わった気がしたほどだ。
しかし、自来也様という存在を前にしてしまうと、三代目の死すら何処かへ消え失せてしまう。
自分でも想像以上の薄情さに苦笑が漏れた。

「沙羅、お客様だよ」

座敷でお酌に話に情報収集にと勤しむ私の元へ来た女将さんが、そろりと身を寄せそう囁いた。

「お客様ですか?」
「あぁ。ここは私が代わるから、お前はあっちへ行きな」
「……はい」

この時間、他に予約は入っていない筈。
そう思いはしたが、女将さん直々の指示となれば話は別である。
新しいお客様が飛び込みでいらしたのかもしれない。
そう思った私は、指示された部屋へと足を向けた。
「失礼致します」と言葉をかけ、ゆるりと襖を開ければ、目の前に飛び込んできた光景に目を見開いたのである。


「貴方は……」

「久しいな、沙羅」





next