適量の孤独 | ナノ


惜しい人材 壱


何故俺が独り身のカカシの世話をしてやらねばならん!
とは言いつつ、我が生涯のライバルに床に伏せていてもらっては困る。
イタチの瞳術を受け寝込んだライバルを診てもらおうと、俺は木ノ葉病院に足を運んでいた。
木ノ葉の抜け忍としてビンゴブックに名を連ねるイタチが現れた今、のんびりカカシを寝させておいてやれる状態ではない。
三代目を失った今、木ノ葉の戦力は落ちに落ちているのだ。

「ガイさん」

カカシの家に来てくれるよう医療班を手配した俺は、病院を後にしようと出口に向かい足を向けていた。
そんな俺を呼び止める声。
カツカツと杖を喧騒に紛れさせ近付いてきたのは、偶然にも現在意識を飛ばしているカカシの想い人。
あいつはそういうことを他人に言ったりはしないタチだが、行動や視線を見ていれば分かる。
もう随分と昔からだ。
最初は悪い癖が出たと、アスマや紅たちと語っていたが、どうにもカカシの様子がいつもと違うと気付いてからは皆見守る方向を貫いている。
様子が違うと気付いたのは、確か目の前に現れた彼女が忍として再起出来ないと噂になった頃と重なるだろうか。
何にせよ、俺は偶然にも現れた彼女に嬉々としてこう告げたのだ。

「見舞いに行ってやってくれ」
「え?」

唐突に告げられた言葉を噛み砕くのに時間を要している彼女。
あまり声を大にして話すことの出来ない内容に、俺は耳元へ近付き囁いた。

「カカシが倒れた」
「!」

ばっとこちらに視線を寄越した彼女を病院の庭にあるベンチへ導き、そこでカカシが倒れるに至った契機をゆっくりと語り始めたのである。

「では、あの装束の二人組は……暁」

話を聞いた彼女は思案顔でそう呟いた。

「知っていたのか?」

流石。木ノ葉において諜報活動に長けていた彼女だけのことはある。
そう呟こうとしたが、先に彼女の方が曖昧に微笑んでいた。

「えぇ、まぁ。偶々その二人組がお店に来たので。もっとも、私は女将さんから話を聞いただけですが」

苦笑を漏らした彼女ではあったが、次にはカカシの容態へと話が変わっていた。

「それで、カカシさんの容態は」

こちらを仰ぎ見る視線に、彼女もカカシのことを心配しているのだという事実にほっとした。
昔から女遊びが酷い男ではなかったが、特定の相手がいたためしがない。
来るもの拒まず、去る者追わず。の姿勢は結構だが、相手との問題も定期的に発生していた。
勿論、場合によってはカカシのスペックだけに目を留める女もいるのだ。
しかし、珍しくカカシの様子が違うと周囲に言わしめた彼女は、やはり俺の心配など取り越し苦労と言わせる程しっかりとした人間だった。

「今はまだ眠ってる。イタチの瞳術にやられたからな」
「写輪眼ですか」
「あぁ」

目の前で対峙すれば、写輪眼がどれほど威力のある幻術を操るかは、忍であった彼女ならば説明せずとも分かっているはずだ。
彼女の瞳に、強い意志が宿った気がした。

「お見舞いに、行かせて下さい」

そう呟いた彼女の瞳は、見舞いだけが目的でないことを如実に語っていた。
彼女は俺たちが集まり話し合おうとしていることに気付いているのだ。
そして、情報を集めようとしている。

諜報活動に長けた忍だったというのは、伊達ではないらしい。





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