適量の孤独 | ナノ


敏い弟子 弐


「この辺で、黒地に赤雲の装束を身に纏った二人組を見ませんでしたか」

自分よりも彼女の方が今は里を良く見ている。
それに、今はこの情報を彼女に渡すべきだと思った。
渡せば、自ずと自来也様へ情報が行くと踏んでいたからだ。

「黒地に赤雲……」

ぽつりと言葉を反芻する彼女。
張り付いた笑みを保ったまま、その表情は色を消していた。
忍のそれである。
この感覚に覚えのある私は、内から呼び起こされてくる忍としての自分に背筋が正される思いがした。

「女将さんの情報で、二人組は一休へ向かったと思われます」

相も変わらずにへらりとした笑みを浮かべながらも、思考はあらゆる情報を統合し切り捨て結合し、正しい情報へと組み立てているのだろう。

「分かりました。必ずお伝えしますね」

ひとしきり思考を終えた彼女は、笑んでいた口角をそっと深めそう告げた。
私が何故彼女にこの情報を与えたのかを、気付いているのだ。
彼女は敏い。
あまり深い交友関係を結んできてはいなかったが、何故か彼女のことは出会った当初から信用出来ると思っていた。
何故か。

たぶん、これもまた自来也様が関わっているからなのだろう。
私は、とことん自来也という存在に甘いらしい。


シュッと風の如く消えた彼女の姿を、見えもしないのに追い続けていた。


▼あとがき
お読みいただきありがとうございます。
今回18話に登場した彼女は「花骨牌」の主人公だったりします。




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