適量の孤独 | ナノ


一陣の風が運ぶ者 壱


飲み疲れ、泣き疲れ。
体力も精神力もごっそりと根こそぎ奪われた三代目の葬儀から数日。
自来也様の姿はどこにも見えなくなっていた。


「沙羅、これから検診かい?」
「はい」

あれから女将さんへの態度をどうしたら良いか考えていた。
自来也様への気持ちを知られていると確信してしまったからか、少しの居辛さを感じていたのだ。
私がこのお店にいる理由を知られてしまったも同然。
世話をしてもらっているだけでなく、好きな人のために女将さんの城であるお店を利用しているのだ。
しかしそんな小さなことなど気にも留めていないのか、女将さんは翌朝からいつも通りに声を掛け普段通りに接してくれていた。
その優しさに胸に仄かな温かさが灯る。


「さっき変な奴らがいたから気を付けるんだよ」

変な奴ら……?
首を傾げ問う私に、女将さんは少し前にねと言葉を足し、店先であった出来事を聞かせてくれた。



まさかその変な奴らという情報が背筋を伝い、肌を泡立てることになるとは、知りもしないで。





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