適量の孤独 | ナノ


人間皆こんなもの 弐


鐘の音が遠くで雨に紛れ一つ二つと音を重ねていく。

無くなったお酒に四つん這いで向かう先は自室に備えた隠し扉……ではなく普通の物入れ。
薄暗い中、がさごそと手探りで中を漁っていく。
手先に冷んやりと硬質なものが当たり、目当ての物だと認識した頭はそれをすかさず手に取った。
透明な瓶の中でゆらゆらと揺れる液体を認め、のそのそと着物を引き摺り窓辺へと向かう。

そういえば、自来也様から贈られた半色の着物は、あの日駄目にしてしまったなと動かぬ脳が思考したのも束の間。

ポンと瓶の栓を抜き、届きそうで届かない御猪口に無理矢理手を伸ばし手繰り寄せた。
再び注がれるお酒に映る自分の顔を通り越して、今は音を立てて降る雨と曇天が映り込んでいた。
重なっていく鐘の音がいつまでも耳元で波紋のように広がり、響き続けている。
意味も無くそっと御猪口を回せば、響く鐘の音のような波紋が中で広がっていった。
それを一瞥しそっと傾ければ、喉が火を浴びるように焼けていくのを感じる。
その行き過ぎた刺激と不快感は、疲弊した脳に一種の快感をもたらした。
間違っていると分かりながら、不快感を手放してしまえば襲うのは恐怖だと悟り、またお酒を煽る。
そこからは、あっという間だった。
時間はかかれど、飲んではえずき、えずきは飲んでの繰り返し。
それを止めてくれる人が現れるまで、私はその繰り返しをしていた。

そう。

止めてくれる人が現れるまで。

この不快と同義の快感を手放しても良いと、安心させてくれる人が現れるまで。




「何やってんだぁ、ノォ」

盛大な溜め息が、この手を止めた。





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