適量の孤独 | ナノ


人間皆こんなもの 壱


夢を見た。


あの日の夢を。



大蛇丸の計画した木ノ葉崩しは、火の国木ノ葉隠れの里三代目火影の死と共に幕を閉じた。
あの時。
次々と屋根へ向かう忍たちの気配を追いながら、自来也様の温もりが伝わる思考の中で確信を得たのである。

三代目火影の死を。

何故そう確信したのかは分からない。
白髪の男の歪につり上がった笑みを見たからか。
或は逃げる大蛇丸を見たからか。
若しくは自来也様が木ノ葉崩しの結末を予期し、この頼りない肩にそっと手を添えたからか。
なんにせよ、私は観客席で事の一部始終を見つめていることしか出来なかった。
三代目が亡くなったという確かな情報を伝えに戻って来てくれたカカシさんに、そうですかと呟くことが精一杯だったのである。

そう。
あの朗らかに笑む優しい顔で、新しい木ノ葉の芽吹きに期待を寄せる大きな火の意志が消えて無くなったのだ。


だから、あんな夢を見た。


あの日の夢を。


重い瞼を無理やり押し上げ目覚めたそこは、木ノ葉崩しで難を逃れた店の自室。
冷えきった畳の上だった。
だらりと四肢を投げ出したまま視線だけを窓の外へ向ける。
そろりと動かす眼球の神経すら畳と同化してしまったように鈍い動きしかみせない。
あの日と同じ、降りしきる雨と曇天が目覚めた私を迎え入れている。

そして微かに聞こえる鐘の音が、あの日と同じ。

私の中から大切なものを奪っていった。



今日は三代目の葬儀が行われている。

肌蹴た着物を合わせ重心がぶれるままに上体を起こせば、傍には飲みかけの酒瓶と御猪口が転がっていた。
木ノ葉崩しから二日間。
復興に向けた動きが始まっていく中で、何をするでもなくただただ三代目火影との思い出を身体に刻み込む様にきつい酒を少しずつ少しずつ身体に流し込んでいた。
有り難いことにこの有様では店を開くことも出来ないと女将さんは休業を選択し、私には一言も声を掛けて来ることは無かった。

そして、自来也様も。

あの日そっと肩に添えられた温もりを残したまま、この視界からぱたりと姿を消していた。
誰の干渉も受けない日々が一日一日と積み上がっていくことに、私はそろりと恐怖が身を寄せて来るのを感じぶるりと背筋を震わせた。
そんな恐怖から逃げる様にお酒を飲み始め
ても、誰も何も言ってはこない。
かっと熱くなる鳩尾に血が身体を巡って行くのを感じ、同時に浮かんできた三代目火影の笑顔。

脚の具合はどうじゃ。

そう単刀直入に使い物にならなくなった脚を気遣ってくれる姿を思い出し、ふと安堵したのである。
しかし、そんな三代目火影ももうこの世にはいない。
私に脚の具合はどうだと尋ね、火影様を責める機会と、辛いと吐き出させてくれるチャンスを与えてくれた人間はもういないのだ。
それがどれだけ辛いことかは、この数日でよく分かった。
転がる酒瓶を取り耳元で振ればちゃぷちゃぷと音がする。
追悼の意味が込められているのか、はたまた三代目火影との思い出に浸って自分を慰めたいだけなのか。
残り少ないお酒を御猪口に並々と注いで、ぐるぐると感情が巡る体内に無理矢理流し込んだ。
当然のように競り上がる不快感。

人目が無いことをいいことに、盛大なえずきが部屋に響いた。





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