適量の孤独 | ナノ


早く、早く


ぽつりぽつりと頬を打つ雨に、曇天を見上げる。

息を止め、高い塔が林立する中を無我夢中で走り抜けた。
湿潤した気候は張り付く髪や衣服と共に苛立ちを助長させ、次から次へと襲い来る敵は身体と心に少しずつ傷を増やしていった。

白く霞の掛った視界に小さく舌を打つ。



早く此処から去らなくては。

一刻も早く。

徐々に増していく不安と焦燥が、地を蹴り駆ける脚を心ごと前のめりにさせた。



早く。



早く。


「どこ行きやがった」

そう遠くで私を血眼になって探しているだろう忍たちの声が木霊している。



逃げなくては。


一刻も早く。


早馬の如く駆け出す脚は、立ちはだかる敵の目を掻い潜り包囲網からの離脱を計っていた。



早く。



早く。




早く。







この脚が、動く間に。





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