適量の孤独 | ナノ


終結を象る 弐


「結局、お前は見ているだけか?カブト」

ようやっと会場に潜り込んでいた忍を粗方排除し終わる頃には、クナイを握る手がじっとりと汗ばんでいた。

カカシさんの声がやけに遠くに聞こえると思い椅子の影からそっと覗けば、会場中央で敵と向かい合っている。


「やっぱりバレてた」

ぱさりとフードを取る姿がこの戦場にてあまりにも落ち着き払っていたために、現れた白髪に人を探るような目付きが酷く歪なものに見えた。

彼は何者だ。

急速に思考をフル回転させ記憶を辿っていく。
もしかしたら、持っている情報や人物に当てはまる人間がいるかもしれない。
一掃された観客席の静けさに、そろりと身を起こす。
入り込んでくる酸素の量が肺を押し潰そうとしていた。
一段一段と階段を降りていく。
この行為が後で役に立つかもしれない。
心のどこかで願いながら、一歩一歩と歩を進め瞳を細めた。

「―――!」

瞬間。
ぞくりと背が粟立ち、喉元で空気がきゅっと堰き止められた。
まるでワイヤーで一息に絞め殺される。
そんな感覚だ。
痛い程の太陽光を反射したレンズが詮索を遮り、牙を剥き出しにした獣の如く目を焼いた。
彼は私の気配にまで気付けるほど広範囲に意識を向けているというのか。

あのカカシさんたちを前にしてまで。

ごくりと飲み込んだ唾が唯一の水分とばかりに乾いた喉へと浸透していく。
嫌な感覚だ。
こちらが詮索という剣を抜かず鞘に収めたことを察した彼は、口元を優雅に引き上げた。

何を感じたというのだろうか。

聞き取ることは出来なかったが、口元はこの戦争の終結を形どっていた。



そろそろか、と。

刹那、けたたましい音と共に屋根の結界が解かれた。

この場に居合わせた全員の意識が屋根へ向けられる中で、この瞳だけは彼の気味の悪い笑みが色を濃くする瞬間を見つめ続けていた。



「またオレから逃げるのか?」

カカシさんの挑発にも乗らなかった彼は、目的は達したとばかりに迷う事なくこの場を後にすることを選択した。

去り際、再び焼け付くほどの光が目を刺したが、それも一瞬のこと。

ドロンと姿を眩ませた後には、ささやかに吹き上げる砂埃が舞うだけであった。







戦争とはなんと呆気ないものだろう。

大蛇丸が去り、砂の忍を指揮していたであろう彼が消えた木ノ葉は、瓦礫と血生臭い腐臭と死体を残して、まるで時が止まったかのような静けさが去来していた。
肩口を吹き抜ける風が、視線を空へと導く。
ゆるりと時を楽しむように穏やかに流れていく雲。
それは本戦が始まる前と何一つ変わってなどいないのに、地上は別の世界へと変わり果ててしまった。

その抗いようのない現実の中で、ただ立ち尽くすことしか出来ない。

多くの忍が三代目の元へ向かっていくのを認識しながら、非情にも悟っていたのかもしれない。




この静けさの正体を。


大きな木ノ葉の灯火が、

この国を守り、



そっと消えたからなのだと。





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