終結を象る 壱
本戦会場上空。
澄んだ鷹の音が木ノ葉の忍たちに一つの知らせを持ってきた。
「やっとか」
その声にはっと空を見上げる。
悠然と会場上空を旋回する姿は、木ノ葉の住民たち全員の避難完了を告げていた。
女将さんは無事だろうか。
鷹の合図に、煙管を吹かす女将さんの顔がふと脳裏を過ぎった。
本戦会場がこれだけ悲惨な状態なのだから、外が平穏無事であるはずがない。
女将さんのことだ、避難指示が出ていてもお店を動かないかもしれない。
口癖のように、此処は私の城だとよく話していたから。
疼き出す足が助けに行かなくてはと訴える。
しかし、今し方実感した現実はどうにも私を歓迎してはくれないらしい。
この場からすくりと立ち上がり脱兎の如く駆け出し安否を確かめに行くことは出来ない。
この足では。
その上、実力すら自信の持てる域にはもうないのだ。
カカシさんやガイさんの力を目の当たりにして、尚且つ戦争という実践の中でも生きていけるなどと口にすることはあまりにも思慮に欠けている。
それだけ自力に差がついてしまっているのだ。
「沙羅、じっとしてなさいよ」
私がどうしようもない無力感に苛まれていることを悟ったのか、カカシさんはそこを動かないようにと告げた。
きっと勘の鈍った今ならば飛び出してしまうかもしれないと危惧したのかもしれない。
実際、何も出来ないと悟るまで何かしら出来ると思い上がっていたのだ。
ナルト君を助けられたのだから、と。
しかし現実はそんなに甘いものではなかった。
そんなこと分かりきっていたはずなのに。
そう何度思ったか分からない思考がカカシさんの言葉に一つ頷いた。
なるべく身を小さくして、椅子の影に潜り込む。
近くに倒れている砂の忍が持っていたクナイをそっと手にしたのは、何も出来ないと分かっている思考の隅でもがく矜持がさせた最後の足掻きなのだろう。
見上げれば、カカシさんたちが戦うその向こうで、結界と茂る木々が禍々しい殺気を放って存在していた。
三代目の姿は、もう見えない。