適量の孤独 | ナノ


けじめ 壱


「おーおー、やっとるのぉ」

自前の望遠レンズの先には、木ノ葉東門付近より現れた大蛇が数匹。
加えて横切る砂の忍がひーふーみー。

ったく。大蛇丸のやつ。
何をおっ始めようってんだーのォ。

昔の戦友なれど、大蛇丸の考えていることなどさっぱり皆目見当もつかなかった。

いや、予測は出来ていたのだ。

中忍試験本戦当日、何か事を起こすだろうと。
だから里内や里外近辺の至る所に、三代目も暗部の連中を配置していたのだ。
まぁ、目的が分からない以上戦力を分散して配置せざるを得なかったのは痛いが。
そんな事を横切る砂の忍を流し見ながら考えていると、地響きのような爆発音が後方にある本戦会場から轟いてきた。


まさか。

そのまさかが何を示していたのかは、次から次へと蛆虫のように現れる大蛇を叩き潰し、指揮を取っていたイビキから情報を得た時だった。

「火影様が突如現れた大蛇丸に攫われ交戦中。暗部が向かいましたが、音の四人衆が結界を張り手出し出来ない状況」


まさか、火影の命まで狙うとはのォ。

考えられぬことではなかった。
うちはのガキを狙っていることは既に知れており、もし何か仕出かすのであればあのガキを攫うなりなんなりすると思っていたのだ。
しかし、それでは大蛇丸が木ノ葉に戻ってくる理由としては弱すぎると思ったのも事実。
うちはのガキ一人生け捕るくらいなら、わざわざ大蛇丸直々に手を下さなくてもいい。

ならば理由は考えうる限り一つである。

多分それを予感していたのは三代目も同じなのであろう。
交戦中ということは、何かしら予期し対策していた可能性が高い。
そう安々と殺られる御仁ではないと分かってはいたが、口からは願いに似た言葉が漏れていた。


「じじい、死ぬなよ」

きっと、この時ばかりは火影にではなく、嘗ての師にそう呟いていたのだろう。

視線の先にある本戦会場から立ち昇る煙に、見えるはずは無いと分かっていながら目を細めるとは大概未練がましい。
大蛇丸がいるのなら今直ぐにでも駆けつけて一発ぶん殴ってやりたい気持ちと、木ノ葉の規定に背いて大蛇丸を追い里を出た儂を見逃した火影に対する少しの申し訳なさが二律背反としてこの足を会場へ向かわせようとはしなかった。


「イビキ隊長!大蛇が新たにひの方角より出現!」

うんざりするような報告に、盛大な溜め息が漏れた。
もしこれが大蛇丸の指示によるものだとしたら、彼奴は確実に砂の連中を捨て駒として使っている。
そう思わざるを得ない数押しの一手で攻め入ろうとする戦術に嫌気がさした。
木ノ葉侵攻のために這いずる大蛇が目の前を横切っていくのを見やり、その先にある建物を視界に入れた瞬間、ふと脳裏に浮かぶ強い意志を秘めた眼光。




まずい。

あそこには。


目を凝らした先。


沙羅のいる店が今にも大蛇の餌食になろうとしていた。


「イビキ、ここはお前に任せる」

言うが早いか、イビキの返事も聞かず足は瓦屋根を力強く踏み込んでいた。
血生臭い風を切り、武器がかち合う戦争の音が木霊する中を走り抜ける。
大蛇の呻き声が、まるで戦争を讃美しているようだった。



『見に行きますよ』


喧騒に紛れて聞こえる声は、幻聴に他ならない。





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