適量の孤独 | ナノ


戦火の中で


何が起きているのか。

私には全てを理解することは出来なかった。

それでも、今目の前の現状が少なくても木ノ葉にとって良いものでないことは分かる。


サスケ君の首に呪印を付けた大蛇丸。

観客に幻術を掛けた暗部の面を付けた裏切り者。


そして、木ノ葉に牙をむく砂の忍たち。




これが、戦争。

クナイの音と共にどかりと投げ飛ばされる人の音。
息絶えた砂の忍が白目をむいて転がる姿に、ひゅっと乾いた風が喉を通っていった。

中忍試験を通して忍としての覚悟を決めたはず。

サスケ君とナルトに、今度は自分の後ろ姿を見ていて欲しい。
そう心に念じた意志が早くも揺らいでいこうとする私を立ち直らせたのは、カカシ先生のいつものように緩い笑顔と、突然現れた一人の女性だった。


「ナルト!」

カカシ先生に言われナルトとシカマルを起こしに向かった先で、背後から襲い来る敵。
気付いた時にはただ声を張り上げナルトの名前を呼ぶ事しか出来なかった。
敵から向けられる本物の殺意にへたりと腰が抜ける。

助けてくれる先生たちはいない。


どうしたら。

忍として敵から視線を外すことは御法度。
しかし、体は正直に動く。
思わずぎゅっと目を閉じてしまった私は、
次の瞬間何処からともなく聞こえてくる凛とした声と瞼の裏にまで届く眩い閃光にそっと瞳を開けた。

ナルトを守る様にして敵との盾になる真っ白な真珠の様な物体。

そしてその向こうでこの術を発動させたであろう一人の女性が、額に汗を滲ませ息を切らせている。
襲ってきた敵は閃光で隙を作ったのか、カカシ先生が回し蹴り一つでのしていた。

「姉ちゃん!」

唖然とする私を他所に、目の前でナルトが大声を上げる。
仮にも助けてくれた見知らぬ女性に対して指差し一つで失礼な。
とは思ったが、相手の態度を見る限り見知らぬとは言い難かった。

何せナルトが助かったことに心底ホッとしている姿が見て取れたからだ。

「無事で良かった」

そう呟く、
まるで母のような……

ううん。

まるで、愛する人を守れた喜びに胸を撫で下ろしているような瞳が、ナルトに向けられていた。


どういうこと。

その問いの答えを、私はナルトを抱えてガイ先生の開けた大穴から飛び出した後に聞くことが出来た。


「そうだったの」

聞けば一度しか会ったことのない人だと言う。
それも一楽でラーメンを一緒に食べた、が付随する。
今回の本戦には、ナルトが来て欲しいと言ったのだそうだ。

しかし、そんな口約束如きでわざわざ足の悪い女性が本戦会場まで足を運ぶだろうか。

それもナルトのために。

あんな瞳を向けて。

そんな疑念にも似た感情を抱いていると、横では更に深刻そうなナルトが何やら呟いていた。
風を切る木々の音に紛れて全て聞き取ることはできなかったが、


それにしても、何で姉ちゃんが……

ナルトは、そう呟いていたと思う。
私と同じように、あの女性に疑念でも抱いているのだろうか。

違う。

ナルトのこんな瞳は初めて見る。

まるで、何か大切なことを見落としていたような。

何か大きな勘違いに気付いた時のような。

そんな顔をしていた。


だから私は何も言い出せず、真っ直ぐサスケ君を追うことしかしなかった。



あの女性が見せた、誰かを守ることが出来た時に見せる表情を、生意気だと言われようとサスケ君の前で浮かべてみたかったから。





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