適量の孤独 | ナノ


嘗ての忍 壱


おいおい。
俺の勘は嫌な方によく当たる。

突如として本戦会場を襲ったのは忍の幻術。
周りにいた観客たちの体がどさりと音を立てた。
襲ってくる視界不良に何者かの奇襲を受けていることは明白であり、次いで上がった爆発音に目を疑わざるを得なかった。
火影達がいる観覧席から煙が立ち込め、視界に入った火影は大蛇丸に拘束されていたのだ。
マスクの中で苦々しく舌を打つ音が爆音に溶けて消えていく。

あの時、無理だとは分かっていても刺し違えて大蛇丸に手傷の一つでも負わせていればという後悔が頭を過ぎった。

大蛇丸が中忍試験に潜り込んでいることを知っていた手前、厳重な警備態勢が敷かれていたが、それでもこうして堂々と風影に化けて進入されてしまうとは。

木ノ葉に内通者でもいたのか。

仲間を疑うなんて外道な真似はしたくないが、一瞬過る思考。
しかし、それも杞憂に終わった。
何せ目の前にはつい最近交戦したばかりのカブトと、砂隠れの忍がずらりと俺たちの前に立ちはだかったのだから。
簡単に言ってしまえば砂の忍が反旗を翻したのだ。
大方大蛇丸にでも唆されたのだろう。

数日前、ハヤテが木ノ葉の郷内で遺体となって発見されたと報告を受けた。
それも殺したのが砂の忍となれば、納得のいく話である。
もしかしたら、ハヤテは砂の忍が大蛇丸と手を組んで中忍試験で仕掛けてくることを知ってしまったのではないだろうか。
だから口封じの為に殺された。
そう考えるのが妥当であり、現状から見るにそれが答えであるような気がした。

「カカシ!」

だが、今はそれどころではない。
臨戦態勢をとる俺とガイの眼前では、砂隠れの忍が大勢会場に雪崩れ込み木ノ葉の忍と交戦していた。

なんて数の忍なんだ。

「戦争でもおっ始めようってか」

気怠げな声を上げれば、背中から馬鹿を言うなと戦友からの撃が飛ぶ。
はいはい。
真面目にやりますよ。
こりゃ正直、笑ってハイそうですかって帰してやれる状況じゃないからネェ。
三代目のことは気になるが、ガイの言う通りそう安々と殺される人じゃない。
それに下手に手を出す方があの人の邪魔になりかねない。

ならば、俺たちに出来る最善は、今目の前にいる敵の排除一本である。


戦場と化す試験会場とは裏腹に、のんびりと流れ行く雲がどうにも恨めしく見えた。





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