適量の孤独 | ナノ


何よりも呪うべきもの 弐


「ここまでだな」

隣の観客か、後ろの観客か。
誰かは分からなかったが、その終わりの宣言に思考がリンクする。

ここまでかもしれない。

ナルト君を信じていない訳ではない。
自来也様の期待が間違いだと言うわけでもない。
実際試合前までは彼ならばと思っていたのだ。

しかし、あの全てを見透す白眼が告げたことは真理なのだ。

己の力不足は周りを不幸にする。

何より尊敬し愛する人から向けられる瞳や態度の何もかもが変わってしまうのだ。
本人が望むと望まないとに関わらず。
そして期待に応えられない己を惨めにする。
閉じたままの瞼は、待ち構えているだろうナルト君の敗北を受け入れまいと最終抗議のように閉じられたままだ。
外界の音全てを遮断し、目蓋の裏に映る景色が舞台の幕間のように暗転していく。

そう。
全ては変えようのない真実。

圧倒的な力の前では、己の力不足を嘆き呪うことしか出来ない。


私は、そうすることでしか自身を保つことが出来なかった。






「運命が全部決まってるとか、大間違いだってばよ!」
「!」

何故。

何故君はそう何度も立ち上がるのだろう。

腹の底から出た叫びに、はっと意識が引き戻される。
暗転していく世界が鮮やかな色を取り戻した時、頬を強烈な刺激が走った。

ナルト君の叫びが、確かに私の心を引っ叩いたのだ。

「てめーだけが特別じゃねーんだってばよ」
「……」

胸からせり上がる何かに視界が揺らぎ、冷たいものが一筋頬を伝う。
ナルト君の言葉が、強く強く心を貫いていった。
白眼の少年に同調し切り傷に擦れた心なんて御構い無しに、心のど真ん中を真っ直ぐに突き抜けていく。
まるで、ごちゃごちゃと考え悩む私を、何だそんなことかと一蹴し哄笑する自来也様のように。

「そうか……」


そうか。

私は、この言葉を欲していたのかもしれない。


お前だけが特別なのではない。

忍を辞めざるを得なかった私に、こんな言葉をくれた人間はいなかった。
三代目の言葉も、カカシさんの態度も、自来也様の瞳も。
こんなにも正直に語ってはくれなかった。
皆優しさ故に言葉や態度、瞳を淡い膜で覆い隠していた。
ナルト君の言葉にこんなにも心を動かされるのは、もしかしたらそんな彼らに嫌気がさしていたからかもしれない。

本当に、ナルト君は私の理想そのものなのだ。

おかげで大歓声の中、ナルト君が勝利を手にする姿をこの目に焼き付けることが出来た。
横から聞こえていた耳障りな嘲笑も、今では彼を讃える歓声へと変わっている。
これが彼の魅力。
駄目だと思われていても、そこを一点突破自分の信じた道を貫く気迫が、見る人間の心を変えていく。
これは彼に与えられた天性のものかもしれない。


見上げた空を泳ぐ数羽の鳥に、私はナルト君の様だと一人そっと目を細めたのである。





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