何よりも呪うべきもの 壱
その言葉に、どきりとした。
「人は逆らえない流れの中で生きるしかない」
少しずつ。
「ただ一つ。誰もが等しく持っている運命とは、死だけだ」
少しずつ。
「悔しいか。変えようのない力の前に跪き己の無力を知る。努力すれば必ず夢が叶うなんてのはただの幻想だ」
少しずつ。
まるで積もる雪の様に降り注ぐ言葉に、抗う思考の鈍くなった脳は、そうかもしれないと納得した。
冷静な思考を取り戻した先で聞く言葉の数々は音の無いかまいたちそのもの。
心に無数の小さな傷を作っていくには十分な威力を持っていた。
己の力不足こそが、何よりも呪うべきもの。
彼の言葉に納得している意思とは裏腹に、その鋭利さから目を逸らそうとして閉じた瞼の裏で曇天が涙を流す。
そんな光景が広がっていった。
記憶の一部がずるずると引き摺り出されていく。
あの日、私は何よりも己を呪った。
火影様や相談役でもなく、ましてや尊敬の眼差しを向けた自来也様でもない。
それこそ、倒すべきであるはずの敵ですらないのだ。
己自身の力不足と忍としての覚悟の無さを呪うことしか出来なかった私は、それが全て結果であり真実だとして受け入れた。
人はそれを生にしがみ付いた愚か者と罵っていただろう。
実際、それに類似する類の言葉を嫌というほど浴びた。
極秘として告げられた任務も、失敗すればあっという間に情報は漏れ出ていく。
私は木ノ葉病院のベッドの上で動かぬ四肢と無駄にクリアな意識でそれを悟ったのだ。
そして浴びた非難の数々よりも、己のもたらした結果が何よりも自身を苦しめる。
そう学んだのである。
あのネジという少年は、若くしてそれを理解しているのだろう。
本戦会場に着いた時感じた、忍としての血が騒ごうとする心の中にいるもう一人の自分。
忍としての私が、彼の叫びに同調していった。