適量の孤独 | ナノ


願い 壱


まさか、こんな所で。
こんなタイミングで。
彼に出会うとは思ってもいなかった。

うずまきナルト。

私たちの世代で忍をしていれば名を知らぬ者はいないだろう。
偶然とは恐ろしい。
街角でぶつかって顔を上げた瞬間、夕日の紅に映える彼の顔に目を細めた。
こんなにも似ているとは思ってもいなかったのだ。
四代目火影に。

黄色い閃光と謳われた四代目火影を、私は自来也様を通じて知った。
温和な笑みを湛えながらも、一度戦地へと赴けば二つ名に相応しい力は圧倒的だった。
そんな彼も九尾の妖狐襲来において命を散らせている。
戦地と化した木ノ葉で全ての事が終息に向かうと、四代目火影並びにその妻の亡骸が小さな赤ん坊の側に横たわっていたという。
その赤ん坊こそ、ナルト君だ。

彼は自分がどんな運命を背負って産まれて来たのかを、知っているのだろうか。
あの様子では知る由も無いのだろう。

そんな運命を背負って生まれた故に、どれだけ周囲からの風当たりも強く歪んだ心を持ち育っているのかと思った。
しかし、あの真っ直ぐな瞳を見た瞬間優し気に微笑む四代目を彷彿とさせたのだ。
澄んだ迷いのない瞳がとても好ましい少年。
だからだろうか。
あの時、もう少し話をしてみたいという欲が私に一楽への同行という言葉を口にさせたのだろう。
定期健診の帰りにお腹が空いていた、というなんとも有り体の言い分を盾に。



一楽のある繁華街は相変わらず人の熱気が波のように押し寄せ賑わっていた。
久しぶりに誰かとたわいない話をしながら里を歩く懐かしい感覚に苦笑が漏れる。
昔はこんなことが日常だったというのに。
ナルト君はそんな私にちらちらと視線を寄越し、気を遣ってくれたのか何も言わずともこちらの足並みに揃えてくれるという優しさを見せてくれた。

そう。

もしかしたら、私が向けられたい瞳はこれなのかもしれない。

カカシさんのように気遣いと探りの瞳でもなく、三代目のように言葉の優しさに内包される後悔の瞳でもない。
勿論、自来也様のように贖罪を抱えながら逃げと優しさ、時に熱を孕む混沌とした瞳でもない。
単純明解に言うのであれば、ようは私の事件という過去を知らない瞳に見つめられたいのだろう。

そういう意味では、ナルト君の瞳は理想的だった。

今の私を見つめて対話してくれる、純粋で真っ直ぐな瞳。
それは、会話にも如実に表れていた。
正直内容は支離滅裂としていて知性と呼べるものは中々感じられなかったが、ただこの子はとても魅力的だった。
それが真っ直ぐな瞳に魅入られていた私の贔屓目なのかは分からない。
しかし、期待をせずにはいられない。
そんな勢いを持った少年だと感じた。
そして、忍として何よりも優先すべき大切なものを持っているのだと強く実感した。
忍として、人としてなくてはならないもの。
人を思いやる気持ちである。
それを強く実感したのは彼の口から出てくる人々の話が、見栄や恥じらい、尊敬と優しさに包まれていたからだろう。


話せば話すほど、やはりとても気持ちの良い少年だった。





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