Obliviator-忘却術士- | ナノ


密の部屋01


「―――やってくれるじゃない」


珈琲の芳香が鼻腔をくすぐる。
猫脚の椅子に悠然と腰掛け、肘を付きながら新聞を手にした女は、開口一番そう口にした。

眺めた先は一枚の写真。

『空飛ぶフォード・アングリア』と題された1991年9月1日付の「夕刊予言者新聞」トップの記事である。そこにはマグルの世界でポピュラーな移動手段として用いられる車が空を飛ぶという何とも不格好な写真が掲載されていた。

何とも間抜けな展開を知らせる内容に女は苦笑を浮かべていたが、記事下段の一文を見るやいなや、立ち上がったその足でローブを引っ掴んだ。



『―――数名のマグルに目撃されている可能性あり』

ヒールをカンッと鳴らし、黒いローブから覗くいくつか指輪が嵌められた手が白銀の粉を手に取る。



「……仕事が増えたわ」

それだけ呟くと、女の姿は溜息と共にエメラルドの炎に包まれ、煙突の中へ消えていった。





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