14-03
「策士が策に溺れたってことね」
後何回この歓迎を躱さなければいけないのかと溜息を漏らすと、横からは「あいつは策士でもあるまい」なんて皮肉が飛んできた。
確かに。
「こいつを見ていると、お前が同業者を嫌う気持ちが良く分かる」
以前仕事の話をした際、忘却術士として同業者が苦手である。という会話をした。
私にとって同僚の忘却術士達は皆自分を見ているようだったからだ。
忘却術は忘れる事。忘れさせる事。
忘却術士としての訓練を受けた時、最初に教えられることが心を閉ざし殺すこと。
そんな事を平気で出来るようになってしまった自分に呆れながら笑い、同業者を自分の鏡のように見てきたのだ。
ただし、若干一名、例に当て嵌らない人物もいるが。
この考えを、私は誰にも話したことはない。
勿論、この男にも。
だから、セブルスの言う同業者を嫌う気持ちとは、少し論点が違うかもしれない。
「そう?でも私、彼のことそんなに嫌いじゃないわよ?」
「……」
予想外の答えだったのか、目を見開いたセブルスが驚きと同時に眉間に皺を寄せた。
この顔は知っている。
私がロックハートを好きだと勘違いした時の顔だ。
「人間らしくてって意味よ」
訂正を入れておく。
でなければ、また好みのタイプが誤解されるような気がしたからだ。
この一年近くロックハートを見かけたり調べたりとしてみたが、やっぱり苦手であり、それは最後まで変わりそうにない。
「それじゃあ、行くわ」
「……あぁ」
これからロックハートを聖マンゴ病院へ連れて行き、手続きを済ませなくてはいけない。
途中箒から落ちやしないかと心配ではあるが、仕方がない。
強制的にでも送り届けよう。
「ダンブルドアに、報告書は明後日にでもお持ちしますって伝えといてくれるかしら?」
「……伝えよう」
危ういバランスで箒にまたがるロックハートがちらちらと視界を掠めるので、彼が上空何メートルからか落ちて骨折などしてしまう前に、先を急ぐことにしよう。
何も語らない眉間に皺を寄せた男に見送られ、暗夜の空から降り注ぐ優しい光に身を浸す。
こうして、私の長い終業時間が終りを告げたのである。