Obliviator-忘却術士- | ナノ


09


セブルスの部屋は相変わらず薄暗かった。
しかしその部屋を居心地良く感じる自分も居て、何故か妙な気持ちになった。
「あなたらしい部屋よね」そう呟いたのは、そんな妙な気持ちを払い飛ばすため。
彼は聞いていない様にお茶の準備を黙々と進めている。
前回と同じ位置に腰を落ち着けると、彼も同じように向かいに腰掛けた。
最初は何故私が此処にいたのかという当たり障りのない会話から始めてみたが、ロックハートの話題が出た辺りからはするすると言葉が互いの口から紡ぎ出されていった。

途中、パーセルマウスを話したあの少年がハリー・ポッターであるという話題もあがったが、これは「話してはいけない」「話したくない」という心が私の口を重くし、同時にセブルスの口からも言葉を奪っていった。

どうしても触れてはいけない部分があるのだと、お茶をしているこんな時でさえ感じる。

年を経るとは、こういうことなのだろうか。


話題の変換を図ったのは予想外にセブルスであり、彼の口から紡がれた次なる話題は、らしい薬学についてのものだった。

「二角獣の角に毒ツル蛇の皮……ねぇ」

その二品がここ最近部屋から消えたというのだ。

「ただの補充のし忘れとかじゃなく?」
「我輩にそのようなミスがあるとでも?」
「そうね」

有り得ないことだが一応の可能性の為聞いてみると、その質問は答え云々ではなく問題設定に問題があったらしくピシャリと可能性を否定されてしまった。
確かに、彼の性格上薬品の管理は完璧だろう。
となると、考えられる答えはこれまた有り得ないが一つしかない。

「盗まれた……とか」
「……」
「ねぇ、セブルス。もし盗まれていたとしたら、この二つから出来る薬……。私、思い当たるのが一つあるんだけど」
「……」

「ポリジュース薬」

彼もその答えには気が付いていたのだろう。
先程から既に、誰がこの部屋から盗み出したのかを考えているようだった。
腕を組み、眉間に皺を寄せている。

「……」
「……」

二人して沈黙を作り考えてみたが、私には検討も付かない。
誰がこの部屋へ自由に入る事が出来るのか。
多分呪文という術を使えば、このホグワーツにいる全員が容疑者であろう。
下手をすれば、私も容疑者の一人なのだ。
思案の末、彼はそのことについてはうんともすんとも語らなかった。
そのため、こちらが得られた情報は何も無い。
盗まれたという説すら推測の域を出ないために、悶々とした考えだけが頭を巡っていた。
美味しく飲み終えるだろうと思っていた珈琲が妙に苦く感じる。

結局、彼は何も言わないのだ。
だからといって何かを言って欲しいわけではない。
そういう人物でないことはよく知っている。

ただ、ほんの少しでも言葉にせよ態度にせよ表して欲しいと思ってしまうのは、私のエゴなのだろうか。


やはり、何かを言って欲しいだけなのだろうか。

「検討はついたの?」
「時期に尻尾を出す」
「……そう」

やけに自信がありそうだ。
何を掴んだかは定かではないが、優雅に紅茶を飲む姿は、この事件が彼にとって何でもないことを表していた。
彼なりの心配ないという表現方法なのだろうか。
それとも無意識の言動か。

ややこしい男である。

ちぐはぐな香りを肺に流し、先程感じた妙な苦さの珈琲に口を付ける。


美味しかった。



後、その二つの品が推測通り盗まれたものであり、ポリジュース薬制作のために使われていたことを、私は知ることになる。





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