01-06
「下を向くな」
その言葉に、肩をびくりと上下させた。
私に言われている訳ではなないと、分かっているのに。
それでも反射的に体が反応し、視界は大きなビルが立ち並ぶ都会を写した。
側では黒い大男が隻眼の少年を諭している。
短い、なんてことない言葉が、少年を飛び越して私に矢を突き立てたみたいだ。
反射で上げた頭をそろりと垂れれば、歪み始めた世界の、確かに存在したはずの乾いたアスファルトがぼやと視界にうつる。
歪んでいないのはただただ呆然と立ち尽くす靴のみ。
その現実にギリと唇を噛み締め更に顔を俯ければ、しとしとと垂れ落ちてくる黒い髪。
長くて良かった。
側から見たら酷く不気味な幽霊が出来上がっているに違いはないが、私にはそれがきっと丁度良い。
視界がみるみるうちに変わっていく。
結局私は何もせず、1つ目の世界を終えた。
したことといえば布団にくるまり自分の存在について考えただけ。
別段それを後悔していないし、皆に気を遣わせて悪いとも思っていない。
ただ、何もしていない私に関係なく勝手に歩を進められたことに、酷く空っぽな気分になった。
街が歪み、空間が歪み、世界が歪む。
ぐるぐる、ぐるぐると見えない何かが視界をかき回す。
遂には自身の体さえもが歪んでみえて、
ぽん。
なんて言葉がつきそうなほど、呆気なく世界から見放された。
私はまだ、何処にも進めていない。