01-04
彩ずる仏の鼻を欠くとはよく言ったもので、欲張りにも満足のいく環境を手にしようと奮起した結果、私の手元に残ったのは多くの疑問と、猜疑を孕んだ瞳の彼ら。
悩みに悩み、果ては何を悩めば良いのかすら分からなくなった頃、彼らは仮宿へと帰ってきた。
労わりの言葉をかけてからはたと気付く。
私は今、具合が悪くなければいけないのではなかったか。
あまりにも思考に集中し過ぎて、素で返した言葉に軽く後悔が襲う。
あぁ、やはり上手い言い訳を考えるのが先であったか、と。
仮とはいえ今や此処は乙女の隠れ家だと言うに、大の男二人にとっては関係などないらしい。
ズケズケと私に与えられた部屋に腰を下ろす奴らにチラと視線を向けた。
体調はどう。
なんてヘラヘラと聞いてくる優男。
私の仮病なぞ朝方から気づいていただろうに、なんて奴だろう。
気がきくのか、嫌味なのか、はたまた何も考えていないのか。
満面の笑みに気圧されながらも、やわら口角を上げ問題ないと告げる。
誤魔化される気になったのかどうかは知らないが、それ以上追求してくることの無い男に安堵したのも束の間。
問題は男であって男で無かった。
じとりと睨みつける様な視線を発するもう一人の男こそ、目下私が全力で退けなければならないフロアボスに違いない。
かと言って、到底勝てる見込みもなく、元来体格のいい大男を苦手とする私は、視線を向けるまでもなく白旗を振っていた。
「こんにちは、侑子さん」
尻尾巻いて逃げるとは正にこのこと。
男からの視線を全力で逃げ、敵前逃亡に成功した私は、只今壁に映る麗しい女と女子トークを繰り広げようと奮闘中である。
膝にはぐっすりと眠りにつく人形が一体。
此処にお菓子や紅茶、ゆったりと寛げるクッションがあれば尚良しなのであるが。
とかくむさ苦しい男二人との会話よりも、彼女との対話の方がより重要であり、意義があった。
話さなければならないことがある。
聞かなければならないことがある。
確認しなければならないことがある。
これは必然ですか
飛び出しかけた言葉をぐっと抑え込んだ。
聞きたいことが山程ある。
限られた逢瀬の中で聞けること、解決できることはほんの僅かばかりだとは知りつつも、それでも、疑問が浮かんでは消え頭を揺さぶる。
何故私は此処にいるの。
何故私は彼らと出会ったの。
どうして、
巻き込まれなければならなかったの。
旅を共にする彼らは、私にとって一方的な加害者で、非力で何もできない被害者は私ただ一人。
そんな理不尽が間違っていることは重々承知の上ではあるが、理性と感情は所詮別物で、交わることなどありはしない。
貴方達は良いじゃない。
物語があるのだから。
貴方達は良いじゃない。
幸せばかりでは無いけれど、必ず未来がやってくるのだから。
貴方達は良いじゃない。
死なないのだから。
そんな酷く低俗であって、それでいて確かに本心に触れてくる言葉が溢れそうになった。
あまりにも見通しが立たない。
細く不安定な糸の上歩いているような感覚に悪寒が走った。
一言でも、例えば呼吸音でさえも、今何かを吐き出したら、私の中のドロドロとした感情が一つ残らず吐き出されてしまうのではないか。
唇をグッと噛みしめれば、既に爛れボロボロだった皮膚は、簡単に裂け血を滲ませた。
どうして、私なの。