04-10
冷たい回廊に足音が響く。
音に合わせてぶらりぶらぶらと揺れる足がもどかしい。
泣き顔を見られたからには、最早何も怖いものなどないと、安堵を求めて彼にしな垂れる体が余計に足の不自由さを嘆いた。
発熱による体力消耗は、どうして中々、侮れない。
見つけてもらうだけならまだしも、剰え子供のように泣いた挙句、立つこと叶わずこうして彼の腕の中にすっぽりと収まり、終いにはぶらぶらと振動に合わせて揺れる足に、不甲斐なさを抱かずに何を思えばいいのか。
噎せ返るような甘さに流され泣いた過去の己を恨む。
どうせ泣くことぐらいしか出来ることなどなかったけれど、ひどく弱い人間に見えただろう振る舞いが、私の尊大なプライドを傷つけたのは確かだった。
今更何を。
散々惨めな姿を晒しておいて、何を今更と、ぶらぶらと漂う足が嘲笑う。
「他のみんなは…」
そんな浅はかな思考を読み取られまいと苦し紛れに溢した声音は、あまりにも淡泊なそれで、心配という2文字は抜け落ちているのだろうと、自分でも感じた。
それは何故だろう。
道筋から外れた行動をとる存在が、呑気にも私を運んでいる。
道筋から外れた行動をとる存在が、道にすら立つはずのなかった人物を助けている。
そんな異常の中で、何ゆえ正常が罷り通ると思いこんでいるのだろう。
彼らがこの城と共に崩れ落ちるのは、延いては物語の終わりであって、主人公の目的が達成されないまま終了する物語なぞ聞いたこともないと、そう思っているからだろうか。
物語には抗えない。
運命には抗えない。
必然には抗えない。
そう強く認識しているにも関わらず、こうして道筋から外れた行動をとる登場人物がいる。
それをなさしめたのがよりにもよって私だという事実にとんと無視を決め込んだ。
都合の良いことしか見ていたくない。
聞いていたくない。
無理難題、私なぞが紐解ける筈もないと、早々に見切りをつける癖が顔を出した。
「医者の野郎を追いかけてる」
思考をぷつりと遮るように聞こえてきた声に反応する。
そうだった。
私は彼に何かを訪ねたのだった。
なんだったか。
余りにもどうでも良い質問だった気がする。
足音の反響を聞きながら考えてみるけれど、まったくもって思い出せない。
そのうち彼がなんと答えたのかを忘れ、返事を返すのも忘れて、一定のリズムを刻む足音に耳を傾けていた。
ゴゴッ、ゴゴッ
靴音と混ざって、遠くから音がした。
ゴゴッ、ゴゴッ
地響きのような音。
何か重いもの同士が引きづりあい、擦れ合うような、重たい音。次第に振動も伝わってくる。彼が歩みを止めたから。
確かに伝わってくる振動に、じわじわと思考がまとまりだし、逃れたがった結論にたどり着こうとしていた。
まさか、そんな。
だって。
このシーンの時、彼は他の仲間と行動を共にしているはずなのに。
まだ起こりえないと、驕っていた。
私はこのまま無事に救出され、道筋に戻るようにして私を抱える大男は再び城の中に戻るものだとばかり。
随分と都合の良い道筋を信じていたのだと、忍び寄る恐怖に現実を突き付けられた。
城が沈む。