水魚の交わり | ナノ


04-04



使用人ですから。

そんな自分で決めてもいない、勝手に命名された役職を最大限活かして手に入れたのは、雑用係とは名ばかりの自由気ままなお留守番係であった。

同乗者の微かな温もりで身を温める間もなく辿り着いたのはスピリットなる町。
彼らが目指していたお城の城下町とも呼べるその場所に、旅の一行は足を踏み入れた。

そこで何やら待遇が良いとは決して言えないお出迎えを受け、終いには異世界を旅する旅人から、筆を走らす放浪の旅人へと姿を変えることとなった我らが一行。

作家に雇われた使用人という立場をそこで手に入れた私は、ニューゲームよろしく、改めて初心に戻り歩みを止めることから始めてみた。
幸い、城とこの村は目と鼻の先、ほど近いわけでもないが、遠いわけでもない。
この距離ならば恐らく言葉の壁にも突き当たりはしないだろう、なんて勝手な検討をつけて、ぬくぬくとした毛布代わりのフカフカとしたソファーに一人身を埋める所存であった。

最早諦められているのか、呆れられているのか、特に反対意見を出されることはなく、羽探しに出かけて行った彼らをこうして送り出すことと相成ったのは、またしても子供が居なくなったと騒ぎが起こった、一夜明けた朝のこと。

勿論、今回は知恵熱という設定は付与されていないので、きちんと玄関まで見送っている。
前の国でずぶ濡れになり、冷え切っていた体とは思えない程に健康で健やかな体で彼らに手を振ったのはつい先程のことだ。

彼らを乗せた馬が歩み出して直ぐに屋敷へと入ったのは、薄情でもなんでもなく、寒さ故だということを私は彼らに熱弁するべきだったろうか。


それはさておき、今しがた起こり得た状況を1つ整理してみたいと思う。
伝承を調べ放浪をしているらしい一行を送り出した後、ソファーで自堕落な格好をする間もなく私は何故か外へと連れ出されていた。
犯人はひと時の宿と身も沈んでしまいそうなソファーを提供してくれたお優しいと評判の町医者ことカイル=ロンダート。
警戒されているのか、ただの考えなしなのか、どういう訳か彼の訪問診療に付き合わされている只今現在。

どうしてこうなったか。

彼曰くここ最近気落ちしている本好き幼女に、自分たちが調べてきた伝承や物語を語ってあげて欲しいそうな。
それはたとえ町医者が許しても、本好き幼女がせがんでも、幼女の親が余所者を警戒している限り、いかんせん無理な話ではなかろうか。

そもそも私は使用人であって、名作を生み出す作家でも、口が良く回る語り部でもない。
そんな私に出来ることなどないだろう。
そう断りを述べソファーでの籠城を試みるも、宿主の権力には勝てるわけもなく、またその恩義に抗うことへの抵抗を感じてしまう遠慮たがりの私は、こうして寒空の元、自称町医者、もとい町人公認のお優しい先生と共にお宅訪問に同行することと相成った。





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