水魚の交わり | ナノ


04-02



「まぁ、大変良くお似合いで」

まるで何処かのお姫様のようですわ。
美しいドレスを身に纏った艶なる女性は、砂漠の姫を前にしてそう述べた。
そりゃそうである、彼女は正真正銘何処かのお姫様なのだとは、誰も口を滑らすまい。

今現在、私と彼女は女性物の服屋に赴いていた。

何せ新しい土地に着いたはいいものの、彼女は半袖、私はびしょ濡れ。
雪国を舐めているとしか言えない服装で彷徨こうとは思わない。
結果一先ずの腹拵えもそこそこに、女性陣2人は先んじて料理屋の側に位置する服屋へと足を向けることとなった。
軍資金は勿論、神の愛娘である彼女がしこたま稼いだお金である。
そうして冒頭に戻る。

砂漠の姫を店主と共謀してあれこれと着せ替えさせていた。
儚い姿に品の良いドレープが良く似合う。

「お客様、此方もお試しになってみては?」

きっと良くお似合いになります。
首を傾げ色っぽく訪ねてみてはいるがこの店主、彼女が拒まないことを既に理解したらしい。
正にやりたい放題服を押し付けていた。
彼女はオロオロとしながらも着替えに向かう。

その姿を確認すると店主はクルリと向きを変え、私の元へ歩み寄ってきた。

「さて、さっき見せたものをもう一度見せてくれるかい」

途端口調も目つきも変わった店主に怖気付くこともなく、真新しく手に入れたサイドポーチから輝くものを数枚、取り出した。
自らキラキラと輝きを放つそれを店主に渡せば、目を光らせ品定めする店主。
それはもう真剣に。
当然と言えば当然である。
今は店主と客ではなく、店主と商人という立場なのだから。
当然厳しい目になるのは買い手側という真理に、何も訂正もなかった。

彼女が手にしているのは、前の国で手に入れた光る鱗。
それを荒く砕いたうちの数枚であった。

自身の艶と伸びる長い髪を対価にして結果的に手に入れたそれを、ここで高く売りつけることが、私の今回の目的であった。

それも誰にも気づかれず。

だからこそ男共が入りにくいこの場所で、砂漠の彼女を追いやってする必要があった。
別段隠す必要もないのだけれど、浅ましい意地やプライドがそうさせているのは紛れも無い事実である。
店主もそれとなく察し、また自国にないその鱗の真価を測ろうと先程から姫を試着室に追いやっては、しげしげと鱗を見つめる。

「こんな珍しいもの、何処で手に入れたんだい」
「私たち旅をしておりまして、その途中で」

出処は機密事項だと告げれば、惜しそうにしてからジッとその鱗に視線を戻す。
宝石のように輝いていながら、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうな其れは、確かに何も知らない人間からしてみれば酷く繊細で美しい欠片に見えているに違いない。
ただの魚の鱗だとは、つゆにも思わないだろう。

それもスヤスヤと寝ていた、
何の害もない魚から、
自らの手で剥ぎ取ってきた一品の欠片だとは、
誰が想像できる。


「わかった。買い取ろうじゃないか」

物々交換がお望みだったね。
1つ息を吐いてから気前良く言い切った店主。
ブツブツと呟きながら幾つもの宝石箱を漁っては、これは違うあれも違うと出しては仕舞いを繰り返す。

ありがとうございます。

頭を下げ、ようやっと戻ってきた店主の手におさまる輝く宝石たちを見つめる。


気分はわらしべ長者。





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