水魚の交わり | ナノ


03-02



動物虐待だとか、己の都合のみを優先する利己的な奴だとか、

そう謗られようと罵られようと、私にとって1番大切なのはやっぱり自分で、

私以外の何が傷つこうが、やっぱりどうでもいいのかもしれない。


光る魚の身からもぎ取った鱗を眺めて、そんなことを思った。



話は霧が立ち込める国に到着して直ぐの頃に遡る。
此処が何処だか、危険な国なのか、はたまたその逆か、そもそも人がいるのかまったく分からない世界に舞い降りた一行は、例の如く白く長いうさ耳を持った生物に羽の在りかを問う。

踊らされるがままに湖に視線を送りてんやわんやする彼らを眺めながら身震いを一回、やたら寒く感じる首筋を引っ込めた。



「大丈夫ー?」

その微かな震えに反応したのは、ひょろと伸びた身長ににへらと笑う笑顔の魔術師。

流石によく見ていると思った。
たった一回、彼らの背中越しにした身震いを気遣ってきた魔術師は、緩い笑みでこっちを向いている。
それに柔と答えれば、彼は私よりも困った顔をして謝ってきた。


「ごめんね。俺の上着、サクラちゃんに貸しちゃったから」

存外にお前に貸す上着は無いのだ、と、そういうことだろう。
確かに少しばかり寒いが、彼の上着は元々彼女が羽織ると決まっている。
そこに残念という気持ちも、卑屈な気持ちも浮かんではこなかった。
逆にこれが正しい道筋で、それから弾かれた私は、まだ物語に巻き込まれていないのかもしれないという奇妙な安心を得る事ができたのだから。


それに、どうせこれから濡れる予定なのだ。
今温もりに包まれる必要もないだろう。



「黒ぷーが貸してくれるって」

頭を振り気にするなと伝えた所で、そんな言葉が降ってくる。



どかん。

正に大きな爆弾を落とされたような気分だった。
本人の許可なくそんな大それた事を述べる彼の口は今も止まることなく動き続け、それに呼応し怒鳴る男。
まるで薄っぺらいお笑いでも見ているかのようなその会話に、私はそっと視線を背けた。


彼の鋭利な視線は苦手だ。
大きく屈強な体格が苦手だ。
そんな彼から一体誰が羽織りを借りれるというのだろう。



私は大丈夫です。

慌てたが故の掠れた頼りない声で、精一杯の事実を告げた。
しかしそれを言葉1つで退けてしまう彼も、先の彼同様、やはり私の苦手な人種らしかった。



「だってその格好じゃ寒いでしょ」

ヌッと近づき彼が触れてきたものを確認して、ピクリと体が揺れる。
視界の隅に映るのは彼の細く長い指と、それから逃げるようにこぼれ落ちていく短い髪の毛。



かつての長く艶めく自慢の髪は、

清々しいまでにその姿を変えていた。





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