02-04
砂漠の乙女とその騎士が帰ってきた。
赤い傷を走らせて。
ぐるぐると蓑虫のように沈黙を貫いた布団からそっと顔を覗かせる。
どうやら物語の大団円は近いらしい。
きっとこの後、彼らは魔女と話して城に向かう。
なんの役にも立たない私は、姫と少女とお留守番だろう。
いや、村人集めとでも言うべきか。
兎角大して大事になどなるまいて。
物語は全て必然。
全ては道筋通り進むのだ。
阪神共和国の時だってそうだったじゃないか。
そう決め込んで、再び人目も介さず顔を埋めた時だった。
「紅葉、貴方も行きなさい」
どくり。
先程までがやがやと鳴っていた音が消える。
聞き間違いとも思われる何とも残酷な響きを持った声が突然降ってきた。
がばり。
布団を大きくぐ。
声を辿れば、あの凄艶なる魔女と目があう。
同時に旅を始めてすっかり怖くなってしまったヒトの視線をいくつも感じる。
何を言っているのだろう、あの魔女は。
「なん、で」
どうして私なの。
かつて阪神共和国で繰り返し巡った疑問が、今度こそ溢れてしまいそうだった。
「貴方、何時まで逃げてるつもりなの」
淡々と突き放す声音に、恐怖と怒りで体が震えた。人は理不尽というものにこれ程耐性がない生き物なのか。そんなことを思ってしまう。
当事者でもないお前が何を言う。
グッと唇を噛みきった。
一皮の自制心だけが、醜悪な正体を曝け出すことに躊躇した。
今すぐにでも喚いてしまいたい。
激情の波が喉元を熱く焦がした。
「それが、貴方の願いなの」
怒りか恐怖か、はたまたそれ以外か。
震える声で発した内容は随分とまぁ、嫌な女を演じたものだった。
魔女が私に望むのか。
そう問う内容に意味などない。
それはちっぽけな自尊心と衰弱しきった心を守るための、単なる誤魔化しでしかないのだから。
「……いいえ」
少しの沈黙と見つめ合いの中、魔女はゆっくりと頭を振る。
その姿を視認してやっと、私は深く息を吐いた。
熱く湯気巻く波が、穏やかに引いていく感覚がした。
「そう」
なら私は行かない。
木霊する程反響しない部屋で声が響いたと感じたのは、
思えばこれが始めての強い拒絶だったからかもしれない。