02-03
病弱という設定を付けた覚えはないが、何故か体が弱いと決めつけられた私の末路など、私が語るべくもなく自明の理として現実を連れてやってきた。
「紅葉ちゃんは前の国でずっと寝込んでたからね」
だから今回もお留守番。
見透かした瞳をぎゅっと弓なりに曲げた笑顔で、なんてことを言うんだ。
そう思わずにはいられなかった。
只今現在、この時をもって、私は頗る健康的な体を手に入れたと声を大にして叫びたい。
事の起こりはなんてことない。
室内で嵐が発生するという珍妙な人工現象に出くわした一行は、幸い野宿に勤しむことなく屋根のぽっかりと空いた、元屋根付きの家に泊めていただくことと相成った。
そうして夜が明けると、大層世話焼きでお人好しな元屋根付きの家の主人である香春の観光案内に勇み足で向かおうと立ち上がろうとした瞬間、かの飄々とした風貌の男が発した一言により布団と仲良くならざるを得なくなったわけである。
布団と寝食を共にすることに異論はない。許されるのならば永遠と安穏とした温もりに包まれて過ごしたい。しかしながら今回ばかりはどうしてもそれを忌避しなければならなかった。
まぁ、その願いも虚しく砕け散ったわけであるが。
つまり言いたいことはこうである。
男二人と三人きりという空間に私の脆弱な精神は摩り切れ、とてもじゃないが耐えられない。
それだけのことなのである。
トンカン、トンカン。
金槌の音が響く。
目の前には背を向け茶をすする男。
上には木板で屋根を補強する男。
そして私は深く掛け布団に包まり、金槌の重く響く音を布切れ越しに聞いていた。
トンカン、トンカン、
トカトントン。
かの有名な文豪が何処かで綴った、金槌とも木鎚とも知れない音が耳に届く。
あの作品を書いたのは誰だったか。
そう、確か6回もの自殺を繰り返した人物だったか。
私もあの作品の主人公のようになってしまいたい。
この音が響くたびに興を削がれる主人公が、今は羨ましくてならなかった。
私もそうして、遂には生きることにすら興味を無くしてしまいたい。
生きたいという欲があるから、今がつらい。
この先訪れる死という存在が、
手助けすらしてくれない世界が、
きらいでこわい。
何かを喋り合う男の声が遠くで聞こえる。
それを遮るようにグッと布切れをかき抱いた。
トカトントン、
トカトントン。
脳内でいくら繰り返しても、
生きることへの興味を削ぐことは、
どうやら叶わないらしい。
注:太宰治『トカトントン』 参考