会いたくて | ナノ


同じ顔のふたり


突然木枯らしの如く去って行ってしまった沙羅に何事かと思ったが、後方からやって来た人物に、成る程と一人ごちた。

「紅じゃない」
「久しぶりね、カカシ」

相も変わらず何を考えているのか分からない瞳。
それでも最近は随分と穏やかに表情豊かになった気がしていた。
きっと沙羅のおかげなのだろう。
ゆったりと時の流れを楽しむカカシに、私とアスマは安堵していたほどだ。
死に急ぐかのように任務を遂行していたカカシが、お団子やお結びを食べながら沙羅に微笑みかけている。
その光景はきっと本人たちには自覚が無いだろうほどに幸せを感じさせるものだった。
いつか、沙羅とカカシが私とアスマのような関係になった時、四人で笑い合えたらいいと思っていたのだ。
そんな風に思っていたからか、二人の間に小さな亀裂が生じてしまっていることは歯痒くて仕方がなかった。
話を聞けば、お互いに言葉が足りないのだろうことは歴然としていた。
勿論話し合えば全てが丸く収まるわけではないが、話し合わなければ始まらないのだ。
私とアスマのように、もう二度と話し合えなくなってしまわぬ前に。
二人は会って、話し合うべきなのだ。

「沙羅、いる?」

周囲を見渡すカカシに、もしかしたら沙羅よりもカカシの方が話し合おうという意思はあるのかもしれない。
そんな風に思った。

「さっきまで此処にいたわよ」

その言葉を聞いたカカシの眉がぴくりと反応を示す。
それでも、へぇーそうなんだ。なんて何てことないように一休を見上げて言うものだから、場を弁えず声をあげたくなってしまった。
このヘタレ、と。
カカシがどうして冷たい瞳と言葉を投げ掛けたのか。
私にはなんとなく分かるような気がした。

きっと、大切すぎて愛しすぎたのだろう。

不器用な愛情の示し方だと思わずにはいられない。
それに、沙羅も不器用だ。
カカシは沙羅がカカシの言葉を頼りに一休を再建していることを知らない。
だからこそこんなすれ違いみたいなことが起きるのだ。
歯痒くて、もどかしい。

「沙羅に会いに来たの?」
「......」

ほらね。同じ顔をするのだ。
カカシの名を出した時の沙羅の顔と、沙羅の名を出した時のカカシの顔。
無言になるところまでそっくりな二人に、歯痒くてもどかしいを通り越して呆れそうになってしまう。
アスマのいなくなった私にとって、お腹の子供は宝だが、沙羅とカカシは光なのだ。
温かな関係を築いていく、私がアスマと歩んで行きたかった光。
だからこそ、二人には幸せであって欲しかった。

心の中で沙羅にごめんね、と呟く。
沙羅が今会いたくないのかもしれないというのは理解できた。
それでも、二人は言葉を重ねるべきだと思ったのだ。
私が、アスマに話したいことが沢山あるように。
話せなくなってしまう前に。
素知らぬ顔をして一休を眺めているカカシに告げたのである。

「沙羅なら忘れ物をしたからって、家に取りに帰ったわよ」
「そっか......」

小さく呟いたカカシが何を思っているかは分からなかったが、じゃあまたねと去って行った方向が沙羅と同じだったから、もしかしたら沙羅を追ったのかもしれない。
そう期待することにした。

幸せであってほしい。
二人がお互いの心を告げられるように。
そう、吹いた風が二人の背中を押してくれるようにと願った。





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