04-01
そんな初体験の飲み会を思い出していると、「何ニヤニしてるのよ」とすかさずアンコのちゃちゃが入った。
ここまでくるともういい酔っぱらいである。
「ニヤニヤなんてしてないから」と酒に溺れた酔っぱらいを椅子に座らせると、「こっち来いや」という聞きなれた声が沙羅を呼んだ。
沙羅をここまで変えてくれた奈良シカクその人である。
人の熱気で賑わう店内をその細身の体でするすると掻い潜り、シカクのいるテーブルに近付くと「これが例の彼女か!」と思ってもみない台詞に出迎えられた。
訳も分からずぽかんとしていると、その台詞を口にした金髪の男性がこちらを手招いていたので、すとんと隣へ腰を下ろした。
そのテーブルには奈良シカクを始めとして隣に秋道チョウザ、その向かいに山中いのいちが座しており、沙羅はいのいちの隣、シカクの向かいに腰をかける形となっていた。
そして、先程の予想外の台詞は自分で思っていた以上に上忍たちの間で話題となっていたらしい沙羅の暴走事件についての言葉だったのである。
「そんなに広がっていたんですか……」
事の一部始終を聞いた沙羅は御猪口に注がれるお酒を見つめながらがくりと肩を落とした。
「ま、そんなに落ち込むこともねぇよ。お陰でお前さんはあいつらと良い関係を築けてるみたいだしな」
そう言ってシカクが遠くにいる酔っ払いアンコに目をやった。後を追うように視線を向けると、いろんな人に絡みつくアンコの姿。
あれはそろそろ落ちるだろうと思い、沙羅はここまでの経緯を思い出しながら「おかげさまで」と微笑を浮かべたのである。
それからというもの、宴の席は一層の賑わいを見せた。任務の都合上参加できなかった忍も数多くいたが、それでも飲み屋一店舗を占めるほどに集まった忍たちは、お酒につまみに談笑にと各々宴を楽しんでいた。
沙羅も例に漏れず賑わう空気を楽しむことが出来ている。
多分それは目の前にいるシカクのおかげなのだろう。
飲み会を苦手としていることを覚えていてくれたのか、店内が賑わい出すと「まだ苦手か?」と酒をあおりながら問いかけた。
その問いに首を静かに振り、「少し慣れました
」と言うと、「そうか」と今まで聞いてきたどの声音よりも優しいものが返ってきた。
何故かカッと熱くなった頬をお酒のせいだとこじつけて、沙羅は盛り上がっていく店内に目を走らせた。