遣らずの雨 | ナノ


03-03



運が味方をしたのか、そこにはもう一人沙羅のターゲットである月光ハヤテが一人カウンターで杯を傾けているところだった。
案の定アンコの勢いに押され、ハヤテを巻き込んだ三人で飲むこととなった。

これが沙羅の仲間という存在と共に初めてした飲み会という席であった。

飲み会は沙羅が想像していたものよりも、とてもしんみりとしたものだった。
賑やかさにばかり目を奪われていたが、アンコやハヤテと共にした飲み会は意外にもとても真剣な話をしながらお酒が酌み交わされたのだ。

多分、あの事件を三者三様心の中でモヤモヤと考えていたからかもしれない。

しかし面白いと感じる部分も多くあった。
名前の呼び方が硬すぎると指摘された沙羅は、「アンコ」「ハヤテ」とそれぞれを名前で呼ぶ様になり、心の中に押し寄せてきた暖かなくすぐったさをお酒で胸に流し込んだのである。

また、アンコは意外にもお酒に弱く、四杯目に向かおうとしたところでクタっと机に突っ伏して眠ってしまった。
何かをぶつぶつと呟いていたが解読には至らず、残されたハヤテと沙羅は二人で顔を見合わせ微笑んだのだ。


ハヤテがアンコに肩を貸し、彼女は自分が家まで送ると申し出たので、沙羅はそれに甘えることにした。

帰り際、店の前で「貴女はもっと淡白な人だと思っていました」と告げるハヤテに「そんなことないですよ。あんなことをやらかしてしまう人間ですから」と苦笑気味に答えた沙羅の肩を、ふわりと風が通り過ぎていく。

言いたいことを理解したのか、ハヤテも同じような笑みを凪いだ空気に浮かべた。

互いに別れの挨拶に“また”という言葉を含めて飲み屋を後にする。


酔い醒ましに歩いて帰った沙羅の頭上には、今まで感じたこともない星空が永遠と続いていた。

こんなに綺麗なものが今まで自分の頭遥か上で輝いていたのかと思うと、少し損をした気分になった。

そして、こんなことにも気が回っていなかったのかと自分自身に微苦笑を浮かべるはめになったのである。





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