03-01
その日を境に、沙羅は少しずつ変わっていった。
相変わらず飲み会というものに苦手意識はあったが、同期二三人という少人数での飲み会であれば苦もなく参加できるまでになった。
それは沙羅にとても良い影響を与えていたのは間違いない。
周りとのコミュニケーションも上手くとれるようになり、周りも沙羅のことを少しずつ知る機会を得ることによって今まで孤立していた印象が徐々に薄れていくという成果を上げていた。
周囲の対応が変化していく度に、沙羅はきっかけをくれたシカクに対して感謝を心の中で述べるのだった。
病室の去り際、ぼそりと「喋りすぎたな」と漏らした背中を微笑ましく思い出しながら。
そして本日、質素なカレンダーに書き込まれた上忍や特別上忍を歓迎する飲み会が行われようとしていた。
暮れなずんだ空を頭上に、飲み会の会場であるお店の前で一つ深呼吸をした沙羅は、お腹に力を込めてガラガラと扉を鳴らし一歩を踏み出した。
外のしっとりとした空気とは対照的な人の熱気を感じさせる空間が沙羅を包み込む。
「来たな」
呟きに近い声を拾った沙羅は、その声に導かれるようにして視線を向けた。そこには金髪や体格の良い男性に囲まれてこちらを仰ぎ見たシカクの姿だった。
「……お邪魔します」
そうぺこりと腰を折って挨拶すると、上から思わぬ力が沙羅に伸し掛ってきたのである。
「沙羅、遅いわよー」
飲み屋にもかかわらずみたらし団子にお酒というアンバランスな物を両手に、これまた不安定な姿勢でみたらしアンコが寄りかかっていた。アンコの息からは既にお酒の香りが強く漂っている。
「遅いってまだ始まって一時間もしてないじゃないですか」
「何言ってのよ!主役は私たちなのよー」
みたらしアンコ。彼女は今回沙羅と共に特別上忍へと昇格した同期である。
そして、あの賊軍討伐の際に共に戦地へと出向いたフォーマンセルの一人だ。
あの事件後、沙羅は木ノ葉病院での療養を終えると、その足でみたらしアンコ、月光ハヤテの姿を探しに里中を歩き回った。
しかし、二人共に任務に出ていたためその姿を確認することは出来なかったのである。
ようやく二人に出会うことが出来たのは、沙羅の傷もすっかり癒え、謹慎が解けたある日の夕暮れ時のことである。
あの事件をきっかけに暫くの間謹慎が命じられていた沙羅は、それが解けた喜びと気分転換に散歩を兼ねて書店までぶらぶらと歩いていた。