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信機



その結果に、彼女はまぁこんなものかと微笑んだ。


「発信機?」

「そう。発信機」



手元にある端末機の画面を覗き込みながら笑う彼女。
国家防衛機関輪第貳号艇専従技師沙羅は、同じ様に画面を覗き込んできた喰に説明を始めた。



「新しい発信機を開発中なの。もっと感度を良くしようと思ってね。この前の戦闘で闘員の皆様方が暴れてくれたおかげで木っ端微塵になったものが多数……」



と横目で床に追いやられたダンボール箱を見やる。中には話のネタとなっている元発信機が無残な姿を覗かせていた。

自分も先の戦闘に参加して発信機を壊した人間の一人なので何も言い返せずに苦笑していた喰は、それを知っての言葉だと分かり、話しかけるのではなかったと密かに後悔した。



「で、今は試作品の実験段階よ」



覗き込んだ画面には艇内の図面の上に何色かのポインターが映し出されていた。



「……これは?」



そのポインターの中でも艇内だというのに一際あちこちへと移動の速い黄色のポインターを指した喰に、沙羅はあぁと呟いた。



「與儀ね」

「やっぱり」



当たり前のように当ててしまえる自分にガクンと肩を落とす喰。
いや、あの男が分かりやすすぎるんだろうと溜息を漏らすと沙羅が補足を加えた。



「鬼ごっこ中らしいわ」

「鬼ごっこって……」



あの人は何歳だ。



「ちょうどいいから協力してもらってるのよ。彼らに」

「彼ら?」

「无君よ」



そう言って画面をスライドさせて白いポインターを見つけると、それを指差した。
白ポインター改め无ポインターは艇のキッチン辺りをちょこまかとしている。
ポインターだけでこんなにも性格が分かるものかと面白くなった喰は、他の人間にも付けてるのかと沙羅に問いかけた。



「羊一匹とツクモ、イヴァには正面から当たって砕けたから付けられなかったでしょ……」

「確かに、あの人は付けさてくれなさそうだ」



思い出したのか、沙羅は端末を指で弾きながら頬を膨らませる。



「そうなのよ!乙女の生活を盗み見ようなんて百年早いわよ!とか言ってさっさと任務に行ったわ。むしろ外に行くイヴァにこそ付けて欲しかったのに」



そう息を吐いた沙羅は、しかし次の瞬間にはニヒルな笑みを浮かべて得意げに鼻を鳴らしたのだ。




「でも、大物に付けられたから今はそれを鋭意観察中ね」



「大物って……」




嫌な予感しかしなかった。



この女が怖いもの知らずということは薄々感じていたが、まさかこんなことを仕出かすとは……。









「勿論、輪第貮号艇長様よ」





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