わるいひと | ナノ



「知ってたのか」
「そらサスケ様、お顔を見たらわかりんすよ」
ほんに、よう似ていんす。

先程の警戒は何だったのかと、そう言いたくなるのをグッと堪える。
そうだった。そういう、人をおちょくる所があったと、記憶で見たのを思い出す。
朗らかに笑う彼女の姿を、イタチは優しく見ていたんだった。
あれはそう、彼女がイタチに医療忍術を施した時。目を瞑るイタチをいいことに、まじまじと顔を寄せて眺めたり、そのままの状態で声をかけイタチを驚かせようとしたり。忍相手に何を無謀なことをと思うが、確かにその時、イタチの感情は揺れていた。気配で彼女がどれ程近くにいて、何処に視線を向けていたのかを分かっていたからこその動揺が、やけに伝わってきた。彼女に対するイタチの想いを漠然と理解したのはその時だったかもしれない。

イタチ様、目を開けてくりゃれ。
イタチ様、少しは驚いてくんなんし。

驚かそうとして逆に見つめ合う形になり、慌てて目を逸らす彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
イタチは、そんな彼女をよくよく見ていた。見ていたからこそ、彼女のこういった性格を彼はよく知っていた。
ふと息を吐く。
思い浮かぶのはイタチが抱く彼女への気持ちばかりで、頭が絡まりそうになる。

「ふふ、またため息どすなぁ」
「悪い。悪気はないんだ」
「いいんすよ。慣れていんすから」

無意識にため息が出てくる。
このため息すらも、イタチの記憶にひっぱられて出てしまったのかと思う程に、イタチの記憶から伝わる感情ははやるようにその鮮明さを増していた。彼女と話す度、色が付くように1つ、また1つとぼやぼやとしていた記憶が鮮やかに蘇る。
まるで、イタチに意識を乗っ取られてしまうようだと、そう感じた。

「さっきもそんな事を言っていたな」
「へぇ。イタチ様の小さな癖でありんすよ」

何を考えてため息を吐いたのかは知りんせんけど、何かを言いかけては、そうやって小さく息を吐いて逃すお方でしたなぁ。

遠い記憶を思い出すように話す彼女。
どうやらイタチの隠し通そうとしていた思いの一端は、早い段階で見破られていたらしい。
一族を、里を騙し通した忍も、惚れた女の前では形無しかと、少しの安堵を覚える。
たった小さなため息。
彼女は小さな癖だと気にも留めていないようだが、それがイタチにできる無意識の信頼表現だったに違いない。
里とも、争いとも離れて生きる彼女の側は、心地良かったのだろう。気取られまいと暮らす日常の中に確かな居場所を得ていたこと、それは俺にとっての救いでもあった。

「そうか、それは」
「何時もの事でありんした」
何時も、何を考えているのか分からないお人でありんしたよ。

穏やかに笑い告げるその声が、俺の続きを遮り朗らかに部屋に響いた。
まるで責められているかのように感じた。





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