わるいひと | ナノ


「ここか」
鬱蒼とした森の中。日の当たらない、暗くジメジメとしたその場所。此処に来るまでに随分と時間がかかってしまった。
情報屋の言う通り、なかなかに客を試すのが好きな薬屋らしい。
こんな奥深くに店を構えていては誰も寄り付きはしないだろうに。森に紛れるようにして佇む小ぢんまりとした建物を見つめる。柱に植物が根付き壁に蔦が這う。申し訳程度に掛けられた看板が無ければ、それとは分からずにいただろうその体裁は、最早森の一部であり、店と呼ぶには程遠いなりをしていた。

イタチも、この店を探すのに大分苦労をしていた。

イタチから貰った記憶の一片。
里への強い思いとはまた別の、ゆらりゆらりと揺れて消えてしまいそうな程に揺らぐ記憶。その中にこの店を探し回るイタチがいたことを思い出す。

女薬師。
薬と名のつくものであれば何でも取り扱うというその店は、効き目は良いが開く場所を間違えたと言わんばかりの有様。寄り付く者はそうそうおらず、やってくるのは手練れのお尋ね者ばかりだと聞く。
そんな女薬師の元に、イタチはよく足を運んでいた。

里への強い思いの片隅に、何故か弱々しく揺らぐその記憶が流れ混んできたその時は、多くの命が燃え消ゆる戦の最中で、穏やかなその記憶に気を回してはいられなかった。
しかし、戦が終わった今。里が、ゆっくりと、しかし確実に息を吹き返している今。
俺は如何しても、彼女に会わなければならなかった。会って、あの時に流れ込んできたイタチの想いを告げなければならないと、そう感じていた。

これはきっと、イタチの未練だ。





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