ガイというひと | ナノ


「で?どうすんのよ?」

呆れを通り越したカカシが愛読書を片手に問いかける。
もうちょっと真剣に相談に乗ってくれても良いのではないだろうか。そんな文句ならざる言葉を告げようと視線を向ければ、その意味に気付いたのかカカシはハイハイと打つ必要の無い相槌を適当に打ちながら愛読書を仕舞った。

「どうするもこうするも……」

ポケットに仕舞われていた妙にダサいストラップの付いた鍵を取り出す。人生で手にしたことのない男の部屋の鍵に戸惑いながら、どうしたものかと思考する。
ここで好いた男の部屋の鍵を手に入れた。と陽気に鼻歌を歌えるほど、私はお気楽な人間ではなかった。

「リー君って、どんな子?」

兎にも角にも、私はガイと約束してしまったのだ。リー君の話し相手になると。

「んー」

顎に手を当てたカカシは考える素振りをした後、マスク越しのくぐもった声でこう告げたのである。

「努力家。ガイにそっくりだよ」

ここで眉毛は濃いの?なんて聞かない辺り、なかなかに私は空気が読める人間ではないかと思う。

カカシの言うそっくりの意味が、容姿云々のものではないと分かっていたからだ。

「そっか……」

力なく溢れた言葉にカカシが一つ溜息を吐く。見慣れすぎた待機所の天井のシミでも数えるように上を見上げながら、その声は要約するところ私の気持ちを代弁していた。

「結局は行くんだ」
「あ、当たり前でしょ?約束したんだから」
「約束ねぇ……」

どこか含みのある笑みを浮かべて向けられる視線。カカシは、私があの背中を追いかけ修行に励み憧れていることを知っているうちの一人でもあるのだ。絶対に内心にやにやとほくそ笑んで、しまいには遊ばれるに決まっている。
頼れる仲間ではあるが、こんな風に色恋を達観して遊ぼうとする姿が玉に瑕だと思わなくもない。見目が良いだけに残念極まりない男なのだ。
その点ガイは見るからに歪みのない心を持っているから信頼に値する。真っ直ぐな言葉と行動は、触れた者に安心感すら与えるのだ。
背中合わせに触れた大きな気配に包まれ守られているのだと思い、「背中は任せた」と言われることに勇気を与えられるのである。
私はそんな背中だからこそ憧れ、守りたいと思ってここまで来たのだ。
しかし今、そんな太陽のようなガイの瞳が揺れていた。教え子の怪我に心を痛めているのだろう。
そんな顔は似合わない。
青春のシンボルを背負い、ナイスガイポーズを決めてこそのガイなのに。
掌に収まる鍵をぎゅっと握り締め、どうにも居心地の悪くなった待機所から早く任務に呼ばれないかと、澄んだ青空を窓越しに見上げた。





next