ガイというひと | ナノ




「で?今は一緒に住んでるの?」

長閑な上忍待機所で不意に掛けられた言葉に、我が青春のライバルであるカカシを見上げた。
今日も相変わらずナウくてムカつくことは変わらない。
いつもなら俺の方からやれ勝負だやれ勝負だと突っ掛かっていくからか、こうしてカカシから声を掛けられるというのは存外不思議な気分だった。

「何のことだ?」

首を傾げた俺に、カカシはうーんと考えるふりをしてみせた。
またその角度がどうしてかナウくてムカつく。
やがて無駄な長考をした後に、マスクでくぐもっても良い声が耳朶に触れた。

「あ。なんだ。てっきり二人ってそういう関係なのかとあははは」

まるで何か小馬鹿にされたようなもの言いに加え、全くもって何の話をされているのか分からなかった俺はとりあえず突っ掛かってみることにした。
そうすべきだと本能が訴えている気がしたからだ。

「おい、カカシ!一体何の話をしている?」
「あれ?本気で分かってない感じ?」

まるで起き上がり小法師が起き上がったこと自体にびっくりしたかのように、カカシの目が点になる。
さっぱりぽっくり何のことか分からない俺は、その目を見てそれこそびっくりしてしまった。
妙な沈黙が流れると、カカシは大袈裟に咳払いを一つしてあーと喉を鳴らした。

「いやね、沙羅とは一緒に住んでないのかなーってさ」
「俺が?沙羅と?」

何で沙羅と一緒に住まなくてはいけないのか。
そう思ったが、咄嗟に先日まで沙羅に鍵を預けていたことを思い出し、それが尾鰭を付けて泳いでいったのだろうと思った。

「あーあれか。よく俺が沙羅に鍵を預けたことを知っていたな!」
「沙羅が預かったって言ってたからね」
「いやな、リーのことを頼もうと思って鍵を預けたんだ。今はこの通り鍵は返して貰ったぞ!」
「......」

友の家の鍵情報まで心配してくれるのかこの男は、ますますナウいじゃないか。
そんなことを思い豪快に笑ってやれば、何故かカカシはその鋭い右目をジトッとさせたのだ。
まるで呆れを通り越して軽蔑でもするかのように。
勿論そんな視線を向けられる言われはないと豪語する俺は、そのジト目を笑い飛ばしてやった。
上忍待機所に響く自分の声に混じって、カカシが溜息の後に「こりゃ沙羅も大変だ」なんて呟いていたことなど、俺は知る由もない。
もしかしたらこの時、俺はふと感じていたのかもしれない。
沙羅から鍵を返された部屋が、いつもよりも物悲しくみえることを。
だからこそ、カカシの言葉に笑い飛ばしてしまえと大口を開けたのだ。
勘違いをしてはいけないと、己に言い聞かせるために。





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