ガイというひと | ナノ


ロック・リー。
私はその姿を、一枚の写真から知ることとなった。
ガイの寝室の枕元。そこに一枚だけ飾られた四人が映る写真。
木枠のシンプルなフレームに収まるその一枚の中に、私はガイの幸せを見た気がした。
現在第三班として活躍する木ノ葉の若葉たち。その中に、ロック・リーはいた。
まさに瓜二つ。親子と言われても不思議のない容姿をする子を目に、正直隠し子なのかと疑ったほどだ。
しかしカカシにそのことをぽつりと問えば、らしくない大笑で笑い飛ばされたのである。

「いくらガイでも、そんな節操ないことはしないよ」と。

ほっとしたのも束の間、リー君とガイの関係性をイチャイチャパラダイスに目を通す片手間に告げるカカシの言葉に耳を澄ませた。
二人の師弟としての歩みは生半可なものではなかったのだろう。
忍術の使えない彼の前に現れたガイはまさに救いの神だったのかもしれない。そして私がその背に憧れたように、リー君もきっと死に物狂いで目指すべき背中を追って来たのだろう。
それなのに、現実は容赦がない。
カカシから聞いた話を反芻しながらガイの家へと帰り写真立てを見やれば、キラリと白い歯を見せて笑うリー君とガイ。
二人にしか分からない世界がきっとある。
師弟という絆で結ばれているからこそ。
ガイがあんなにも瞳を揺らす理由があるのだ。

もし、もしも。
ガイがリー君のような怪我を負って忍の道を歩むのが困難になってしまった時、私はその背になんと声を掛けるのだろうか。

私とガイの間にある絆とは、どのようなものなのだろうか。

ぽすっと、未だに想像よりも柔らかなガイの香りが馴染むベッドに横たわる。
頼り甲斐のある濃緑の背中に守られている安心感を得られるから、ガイの家の中ではこの場所が一番居心地が良かった。
私にとってドキドキと高鳴る鼓動よりも、寂しさに温もりを求める方が優先されたのだ。
程良く沈み込むベッドに受け止められる体が怠惰に緩んでいく。
もしも。頼ってばかりいた柱がある時ぽっきり折れたとしたら。
大丈夫だよ、とか。一緒に治していく道を探そうとか。そんな言葉を安易に口にするのだろうか。
それとも、無神経に忍じゃなくても出来ることはある。なんて口走ってしまうのだろうか。
いいや。結局のところ、大丈夫だとか治す道を探そうという言葉も無神経なものに違いないのだ。
負ったものの重さは本人にしか分からない。
それに、ガイだったらと考えると正直言葉など何一つ出て来ないような気がする。
こんな複雑な気持ちを、今現在ガイは一人で抱えているのだろう。
寝そべったまま卵のように膝を抱える。
そうしなければ、じわじわと締め付けられていく胸の痛みに耐えられそうになかったからだ。
あの暑苦しい青春のシンボルに包まれたい。包んで欲しい。そんな身勝手な願いに縋ってしまうほどに、もしもを想像することは心に深々と降る雪のような切なさをもたらした。
写真立てをぎゅっと抱き締める。

「早く帰って来て……」

そう呟いたこともあやふやなまま、瞳はゆらりゆらりと微睡んだ。
そっと暗転していく世界のどこかにガイの面影を探して。





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